【環境】有機農業への転換が温室効果ガス排出量に及ぼす影響を評価する
Nature Communications
2019年10月23日
英国のイングランドとウェールズで、有機農法による食料生産へ全面転換した場合の温室効果ガス排出量の変化を評価した結果を報告する論文が掲載される。この研究では、有機農業によって温室効果ガス排出量が減少すると予測された一方、国内の食料生産量の減少を補うための海外での土地利用の増加を考慮に入れると、温室効果ガスの正味排出量は増加してしまうことが示唆された。
今回、Guy Kirkたちの研究グループは、イングランドとウェールズで有機農法による食料生産へ全面転換することが温室効果ガスの正味排出量に及ぼす影響をライフサイクルアセスメントによって評価した。その結果、有機農法による食料生産が、慣行農法と比較して、作物で20%、家畜で4%の排出量削減につながることが判明した。しかし、有機農法への全面転換によって大半の農産物が40%台の生産不足となる可能性があるという予測も示された。Kirkたちの試算によれば、不足分を補うために必要な海外の土地面積は、現在イングランドとウェールズの食料生産に利用されている面積のほぼ5倍となる。この分析結果に基づいて、Kirkたちは、温室効果ガス排出量が正味で現在のレベルの1.7倍になる可能性があるという考えを示している。
Kirkたちは、温室効果ガス排出量に対する畜産の寄与度を考えれば、肉の消費を減らすことが重要な役割を果たし、人間の食用作物と炭素の貯留のために土地を開放できる可能性があると主張する一方で、環境的に持続可能な食料生産を達成できる単一のアプローチが存在する可能性は低いと結論付けている。
doi:10.1038/s41467-019-12622-7
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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