【環境】イギリス海峡にいるイルカの皮膚や脂肪層から汚染物質が見つかる
Scientific Reports
2019年9月13日
ヨーロッパで最大級のイルカの沿岸個体群において、脂肪層と皮膚に高濃度の汚染物質(工業用流体、水銀など)が蓄積されているという見解を示す論文が掲載される。今回の研究では、イギリス海峡に生息する82頭のバンドウイルカに検出された水銀の濃度が、このイルカ種に検出された最も高い濃度に分類されることが示唆されている。
有害な有機汚染物質(特に塩素を含む汚染物質)は、1970年代、1980年代に大部分の先進国で禁止されたが、今でも海洋最深部の海洋生物から検出されている。こうした有機化合物は、特にさまざまな工業プロセスの副産物や殺虫剤が含まれており、脂肪や油に溶け込んでいる。環境汚染物質の濃度を調べる研究にバンドウイルカが用いられることが多いが、これは、バンドウイルカの厚い脂肪組織層に有機化合物が蓄積することによる。
今回、Krishna Dasたちの研究グループは、イギリス海峡のノルマンノ-ブレトン湾という生息地で自由に移動するバンドウイルカ(82頭)の脂肪層に存在する有機汚染物質の濃度と皮膚の水銀濃度を測定した。その結果、脂肪層から高濃度の汚染物質が検出され、その大部分(雄の場合は91%、雌の場合は92%)は、工業用流体に由来する塩素含有化合物だった。また、皮膚試料中の水銀濃度は、これまでに地中海と米国フロリダ州のエバーグレーズに生息するバンドウイルカについて論文で報告された濃度に近い。この2つの海域は、水銀汚染のレベルの高いことがすでに知られている。
Dasたちは、ノルマンノ-ブレトン湾を特別保全区に指定して、ヨーロッパで最大級のバンドウイルカの沿岸個体群を保護すべきだという考えを表明している。
doi:10.1038/s41598-019-48485-7
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
注目のハイライト
-
動物行動学:哺乳類の同性間性行動の進化を調べるNature Communications
-
ヒトの進化:ヒト族がジャイアントハイエナと動物の死骸の食べ残しを争ったことを示す先史時代のシミュレーションScientific Reports
-
農業:窒素肥料の使用量の世界的分布を見直して穀物生産を守るCommunications Earth & Environment
-
遺伝学:イエメンのコレラ流行において抗生物質耐性を促進した遺伝子を追跡Nature Microbiology
-
素粒子物理学:反物質は普通の物質と同じように落下するNature
-
気候科学:気候の温暖化による強い熱帯低気圧の発生時期の早期化Nature