【ハリケーン】人間活動によってハリケーンが強力になっている
Nature
2018年11月15日
気候変動によってハリケーン「カトリーナ」、「イルマ」、「マリア」の降水量が4~9%増加し、将来的にはハリケーンによる降水量が最大30%増加する可能性があることを報告する論文が、今週掲載される。また、同時掲載される別の論文には、米国テキサス州ヒューストンの都市化によって、相当な規模のハリケーンによる洪水のリスクが約21倍上昇したという結論が示されている。こうした知見を考え合わせると、ハリケーンとその影響がいかに人間活動に左右されているかが明確になる。
気候変動は、最大級のハリケーンの強度を高めると予想されている。しかし、観測記録に残っている強力なハリケーンの数が少なく、年ごとの変動も大きいため、どのような影響がハリケーンにすでに生じているのかを判断することが難しい。
今回、Christina Patricolaたちの研究グループは、北米のハリケーン「カトリーナ」、東南アジアのハリケーン「Haiyan(海燕)」を含む過去の破壊的なハリケーン15例が、産業革命前の気候、現在の気候、および21世紀末に予想される気候という3種類の気候シナリオにおいてどのように発達するかについてシミュレーションを行った。その結果、ハリケーン「カトリーナ」、「イルマ」、「マリア」は、産業革命前の気候において発生した場合と比べて、平均降水量が4~9%多く、極端な降雨が発生する確率が高いことが分かった。しかし、風速と海面気圧に基づいて判定されたハリケーンの強度に大きな変化はなかった。また、今後予想される気候変動では、最強クラスのハリケーンの風速と降水量が増加して、最大風速が3.1~14.9メートル毎秒上昇し、最悪の温室効果ガス排出シナリオでは、一部のハリケーンによる降水量が25~30%増加する可能性があることが明らかになった。
一方、Gabriele Villariniたちの研究グループは、ヒューストンの都市化が2017年に襲来したハリケーン「ハービー」の降水量に及ぼした影響をモデル化し、2つの影響を明らかにした。1つは、ヒューストンの地形によって大気抵抗が増加し、降水量の増加に作用したこと。もう1つは、都市部の地表が洪水の頻発につながったことであり、その原因はおそらくコンクリートとアスファルトの被覆率の高さにある。これらの影響が合わさることで、都市化によって、「ハービー」並みのハリケーンがもたらす洪水のリスクは平均して21倍上昇した(ヒューストンの各地で、リスクの上昇の幅は0.1倍から90倍以上までさまざまであった)。この研究知見は、都市計画において洪水を考慮に入れる必要性を強調している。
doi:10.1038/s41586-018-0676-z
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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