陸上の気候を安定化させると海洋に余波が及ぶ可能性がある
Nature Geoscience
2018年10月30日
硫酸塩エーロゾルを成層圏に注入して地表の温度と陸上の降雨の両方の変化を最小化すると、海洋循環に影響して、大気を冷却するよりも深海と極域海洋を冷却する効果が低くなる可能性があることを示唆する論文が、今週掲載される。このような効果のために、地球工学的手法は、海水準上昇を食い止めることはできず、遅延させるに過ぎないものなのかもしれない。
地球の反射率を増大させて入射する太陽放射量を管理することは、温室効果ガス放出により引き起こされる気候温暖化を相殺できる方策として検討されてきた。しかしこの手法は、陸上の降雨を減少させ、局地的および季節的な温度のパターンを変化させるなど顕著な副作用を引き起こす可能性があることから、議論の余地がある。
John Fasulloたちは、硫酸塩エーロゾルを両半球の緯度15度および30度の成層圏に戦略的に注入して安定した気候を生み出すことを目的とした、気候地球工学的手法の構想のシミュレーションを解析した。その結果、この地球工学的手法は確かに、地表の温暖化と温度勾配の変化の両方を軽減させ、地域的な温度と降雨量への悪影響を最小限にすることが明らかになった。しかし、今回のシミュレーションでは、特にグリーンランド南部近傍で、海洋温暖化をもたらす可能性がある海洋循環の変化も生じた。Fasulloたちは、気候地球工学的手法の影響は、現在のところ完璧な信頼度を持って評価することはできないと警鐘を鳴らしている。
doi:10.1038/s41561-018-0249-7
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