【神経科学】青年期ラットの社会的遊びの性差は免疫細胞が作り出している
Nature Communications
2018年9月26日
脳内の免疫細胞は、青年期の雄マウスの「むちゃくちゃな」社会行動を制御していることを明らかにした論文が、今週掲載される。この知見は、性特異的行動と成体になる直前の脳の発達の仕方について解明を進める上で役立つ。
最近の研究で、免疫細胞の一種であるミクログリアが脳回路の発達過程に寄与していることが発見された。ミクログリアが、個体の誕生直後に、ニューロン間の情報伝達の接点として機能するシナプスを貪食する(「飲み込む」)ことによって、乳仔の脳内に形成される余分なシナプスをそぎ落とすというのだ。ミクログリアの特性には性差があるとされるが、このミクログリアの作用によって個体の行動とその後の発達がどのように変化するのかは今もなお研究が続けられている。
今回、Ashley Kopec、Staci Bilboたちの研究グループは、雄ラットが青年期に近づくと、遊び行動(例えば、飛び掛かる、相手を押さえ付ける、転がって仰向けになるなど)が一時的に急増することを発見した。また、ミクログリアが脳内の化学的「報酬」シグナルであるドーパミンを検出するシナプスを貪食することで、雄の遊び行動が急増する時期が終わることを明らかにした。このシナプスは、C3と呼ばれる除去のための分子で標識されていた。雌ラットの場合には、青年期に社会的遊び行動の急増は起こらないが、著者たちは、やはりミクログリアが遊び行動に影響を与えている(ただし、ドーパミンを検出するシナプスの貪食によるものではない)と考えている。
ミクログリアが雌ラットの遊び行動をどのように変化させるのかを説明するには、さらなる研究が必要であり、ヒトにおいてミクログリアが社会行動を調節しているのかどうかも解明されていない。これに対して、著者たちは、こうした知見がヒトのティーンエイジャーの脳と性特異的発達を解明するための手掛かりとなり、成人期初期に発症する脳疾患や性差が認められる脳疾患に関する手掛かりが将来的にもたらされるかもしれないと考えている。
doi:10.1038/s41467-018-06118-z
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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