【免疫療法】治療用T細胞を標的の脳腫瘍に誘導する方法
Nature
2018年9月6日
T細胞が標的とする脳腫瘍に到達する能力を向上させるための方法について報告する論文が、今週掲載される。この新知見は、細胞での実験とマウスでの実験で得られたものであり、脳疾患の治療効果を改善する上で重要な意味を持つと考えられる。
T細胞免疫療法は、がんの治療法として有望視されているが、治療用T細胞をがん細胞に効率的に到達させることは、とりわけ脳腫瘍において、大きな制約要因となっている。さらに、がん細胞はT細胞を誘引する機構を遮断することが多いため、T細胞ががん細胞を検出することが難しくなっている。
これに対してNabil Ahmedたちの研究グループは、脳のがん細胞が、T細胞を誘引する特定のタンパク質(ALCAM)の存在量を増やすことを発見した。ALCAMは、成人と小児の脳腫瘍の中で患者数の最も多い2つのタイプ(膠芽腫、髄芽腫)に多く見られる。Ahmedたちは、T細胞とALCAMの結合を引き起こす分子(CD6)を改変した。T細胞がALCAMに結合すると、がん細胞の表面にある別のタンパク質(ICAM1)に対するT細胞の感受性が高まるという連鎖反応が起こる。以上が組み合わさって、この方法は、T細胞のがん細胞への遊走を著しく改善した。
Ahmedたちは、脳腫瘍を持つマウスでこの誘導システムを試験し、T細胞が、がん細胞の中に確実に入り込み、がん細胞を攻撃することを明らかにした。また、T細胞は、標的のがん細胞に特異的に到達し、正常な組織へは遊走しなかった。このT細胞免疫療法を臨床応用するにはさらなる試験が必要だが、この方法は、T細胞が標的とするがん細胞に安全かつ効果的に到達する能力を高めるものと考えられている。
doi:10.1038/s41586-018-0499-y
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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