【遺伝学】ヨウスコウスナメリが淡水に適応する機構
Nature Communications
2018年4月11日
スナメリが揚子江に生息するようになった過程を説明できると考えられる遺伝子について報告する論文が、今週掲載される。近絶滅種(絶滅危惧IA類)のヨウスコウスナメリは、海洋に生息する近縁種と異なって淡水に適応しており、腎機能の変化をもたらし、血液中の水分と塩分の適切なバランスを維持しているとされる遺伝的バリアントを保有している。
今回、Rasmus Nielsenたちの研究グループは、東アジアに生息する49頭のスナメリから集められたゲノムデータに基づいて、ヨウスコウスナメリが遺伝的レベルで他の集団と異なっていることを明らかにした。これは、ヨウスコウスナメリが他種との交配をほとんど行わず、発端種となっている可能性があるという考えを示している。腎機能に関連するタンパク質(尿素を輸送するタンパク質と、血流に再吸収されるナトリウムの量を調節するタンパク質)をコードする遺伝子のバリアントを調べたところ、ヨウスコウスナメリにダーウィン選択の特徴が見られることが明らかになり、これらのバリアントが淡水での生活様式に有利である可能性が示唆されている。これは、体内での塩分保持が、河川で生息するネズミイルカ科の動物に不可欠だが、海洋で生息する個体にとって問題とならないことを反映している可能性がある。
最近になってヨウスコウカワイルカが絶滅した結果、ヨウスコウスナメリは、揚子江に残る最後のクジラ目の動物となった。Nielsenたちは、揚子江に生息する個体群の独特な遺伝的構成を示す遺伝的データによって、今も続いている生息地の破壊を防ぐ活動が促進されることを期待している。
doi:10.1038/s41467-018-03722-x
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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