遺伝子治療によるイヌのデュシェンヌ型筋ジストロフィーの軽減
Nature Communications
2017年7月26日
デュシェンヌ型筋ジストロフィーの遺伝子治療によって、この疾患のイヌモデルの症状が軽減され、この治療法がデュシェンヌ型筋ジストロフィーの筋肉症状を軽減する安全で有効な方法であることが実証された。この研究成果について報告する論文が、今週掲載される。
デュシェンヌ型筋ジストロフィーは、主に男児が発症する遺伝病で、ジストロフィンタンパク質をコードする遺伝子の異常が原因となっている。ジストロフィンが欠損すると、骨格筋と心筋の変性が起こるため、患者は車椅子生活を余儀なくされ、通常30歳まで生き続けることはできない。アデノ随伴ウイルス(AAV)ベクターを用いた遺伝子導入療法は、骨格筋の他の欠陥遺伝子を置き換える効率的な方法だが、ジストロフィン遺伝子は大きすぎて、このベクターの組み込み容量を超えている。この問題を克服する1つの方法は、一部の機能を残した短縮型ジストロフィン遺伝子(「マイクロジストロフィン」)を用いることだが、これまでの研究は免疫抑制剤に依存しており、健康上のリスクが生じる恐れがあった。
今回、George Dickson、Caroline Le Guinerたちの研究グループは、免疫抑制剤を用いずに、デュシェンヌ型筋ジストロフィーを発症したゴールデンレトリバー種のイヌ(12頭)で、この方法を検証した。このゴールデンレトリバーは、デュシェンヌ型筋ジストロフィーの大型動物モデルであり、遺伝子治療法を検証するための貴重な前臨床研究の基盤と考えられている。この研究では、マイクロジストロフィンを組み込んだ修飾型AAVベクターの局所送達と全身送達によって、26か月齢までの時点で、免疫抑制剤なしにジストロフィン発現が回復し、臨床症状が安定することが明らかになった。以上の結果により、この方法のデュシェンヌ型筋ジストロフィーの大型動物モデルにおける安全性が実証され、患者での臨床試験に道が開ける可能性が生まれている。
doi:10.1038/ncomms16105
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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