【環境科学】オゾン層の回復にもっと多くの時間を要する可能性
Nature Communications
2017年6月28日
オゾン破壊物質であるジクロロメタンの大気濃度が最近上昇しており、そのために南極のオゾン層の回復が、排出シナリオによって5~30年遅れる可能性のあることが明らかになった。今回得られた新知見からは、これまで考慮されていなかった化学物質が現在ではオゾンの破壊に寄与している可能性があり、将来的なオゾン予測において考慮すべきことが示唆されている。この研究結果を報告する論文が、このたび掲載される。
寿命の長い人工物質である塩素種(例えば、CFC)は、1980年代に成層圏のオゾン層を破壊し、それは特に南極で顕著に見られた。オゾン破壊物質の排出規制を目的とする国連モントリオール議定書が1987年に採択されると、成層圏のオゾン層が回復し始め、21世紀の半ばから後半にかけて南極のオゾンホールが1980年以前のレベルに回復すると予想されている。しかし、モントリオール議定書の規制対象になっていない寿命の短いオゾン破壊物質であるジクロロメタンの大気濃度が近年上昇しており、オゾン消失に寄与している可能性がある。
今回、Ryan Hossainiたちの研究グループは、全球化学輸送モデルのシミュレーションと観測結果を用いて、ジクロロメタン濃度の持続的上昇に対する成層圏の塩素濃度とオゾン濃度の感受性を調べた。Hossainiたちの予測によれば、2004~2014年の観測結果の平均トレンドによってジクロロメタン濃度の上昇が続くと仮定した場合に南極でのオゾン層の回復が30年遅れるとされ、ジクロロメタン濃度を現状維持できれば、わずか5年の遅れで済むとされる。
ジクロロメタンの排出規制がないためジクロロメタン濃度の将来予測は不確実だが、今後のジクロロメタン濃度はHossainiたちが示した範囲内に収まる可能性が高い。下部成層圏でのオゾン濃度が変化すると、地球上に到達する太陽の放射線が特に南半球で変化するため、オゾン層の回復に遅れが生じる可能性を気候予測に取り込む必要があるだろう。
doi:10.1038/ncomms15962
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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