遺伝子治療で、マウスの聴覚と平衡感覚が回復
Nature Biotechnology
2017年2月7日
マウスの内耳に効率良く遺伝子を導入し、稀少な遺伝性聴覚障害のマウスモデルの聴覚障害と平衡障害をこれまでに例のないほど正常化したという報告が2つのチームから寄せられている。これらの研究で使われたウイルスによる遺伝子送達技術が臨床に応用できれば、内耳の遺伝性疾患の遺伝子治療が大きく進歩するだろう。
世界の遺伝性聴覚障害患者は約12500万人と考えられており、100種類を超える遺伝子から、聴覚障害に関連する変異が見つかっている。大規模な研究によって、ヒトを含め動物のさまざまな遺伝性疾患は、遺伝子の正常コピーを臓器に導入できるよう操作した良性ウイルスを使って治療できることが明らかになっている。しかし、内耳(蝸牛)の細胞、特に“外有毛細胞”に効率良く侵入できるウイルスは、これまで見つかっていなかった。外有毛細胞は、音波に対する“内有毛細胞”の応答を調整する働きをする一群の細胞である。多くの遺伝性聴覚障害では、正常な聴力を回復するのに外有毛細胞、内有毛細胞両方に遺伝子を送り込む必要がある。
1つめの報告ではKonstantina Stankovic、Jeffrey Holt、Luk Vandenbergheたちが、アデノ随伴ウイルス(小型のウイルスで、ヒトに感染するが病気は起こさない)の合成変異体を用いて、マウスの外有毛細胞、内有毛細胞に蛍光タンパク質の遺伝子を効率良く導入できることを明らかにした。安全性を調べたところ、正円窓膜からの注入を含め、この治療法による有害作用はないことが分かった。
2つめの報告では、Gwenaelle Geleocたちが同じアデノ随伴ウイルスベクターを使って、アッシャー症候群タイプICの原因となる変異遺伝子を持つマウスを治療した。アッシャー症候群タイプICは小児の遺伝性疾患で、難聴、平衡障害、失明を引き起こす。変異した遺伝子Ush1cの正常コピーを、出生直後のマウスの蝸牛に導入すると、外有毛細胞と内有毛細胞のUsh1cタンパク質のレベルが上昇し、損傷した感覚毛が修復されて、極度の難聴だったマウスの聴覚と平衡感覚がしっかりと改善され、ささやき程度の音が聞こえるようになったという。
doi:10.1038/nbt.3781
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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