気候科学:メコン川の三角州を守ってきた熱帯低気圧
Nature
2016年10月20日
熱帯低気圧は、三角州地帯に大量の堆積物を運搬し、この地帯を海水準上昇から守るために役立っているが、熱帯低気圧の活動に変化が生じると、三角州地帯がリスクにさらされる。今回、メコン川の25年分のデータの解析が行われ、その三角州地帯(メコンデルタ)に運搬される堆積物のうち、上流域での低気圧の活動によって運搬されたものの占める割合が大きなことが明らかになった。この新知見は、低気圧の活動と堆積物の運搬の関係を解明することが、脆弱な沿岸域の評価を向上させる上で役立つ可能性のあることを示唆している。こうした知見を報告する論文が、今週掲載される。
大きな三角州地帯のほとんどは、海水準上昇による浸水のリスクにさらされており、人間活動(例えば、貯水池の建設)によって三角州系から堆積物が排除されていることが原因の1つになっている。熱帯低気圧による降水量が増加すると、メコン川の河川網で地滑りが起こって三角州地帯に運搬される堆積物が増え、この河川網の他の場所での堆積物の減少を補完すると考えられている。
今回、Stephen Darbyの研究チームは、メコン川での堆積物運搬の32%が熱帯低気圧による降雨に関連していることを明らかにし、1981~2005年の三角州地帯への浮流土砂流量減少の半分以上の原因が熱帯低気圧の気候特性の変化だったことを報告している。メコン川流域に影響を与える可能性のある熱帯低気圧の進路が今後変化することが複数の気候モデルによって予測されており、今回の研究による結果と考え合わせると、将来的に三角州地帯の安定がリスクにさらされる可能性が明らかになっている。
doi:10.1038/nature19809
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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