神経科学:損傷した脳に移植された神経細胞は宿主の神経細胞をまねる
Nature
2016年10月27日
脳損傷を起こした成体マウスに胚性ニューロンを移植したところ、脳回路が再建され、機能も回復したことを報告する論文が、今週掲載される。この新知見は、「交換用」細胞の移植によって脳の損傷と疾患の治療を目指す神経移植の分野を後押しするものといえる。
脳の自己修復能力は非常に限られているため、パーキンソン病や脳卒中のような疾患を治療できる可能性のある方法として神経移植の開発が進められている。有望な結果が得られているが、脳内にもともとあったが失われてしまった細胞と移植細胞との類似性の程度はよく分かっていない。今回、Magdalena Gotz、Mark Hubenerの研究チームは、この疑問を解明するため、マウスの損傷した視覚野に胚性ニューロンを移植し、高度なイメージング法を用いて、胚性ニューロンの運命を追跡調査した。
移植されたニューロンは、急速に突起を伸ばし始め、移植から4週間がたつと、視覚野の上層に通常見られる古典的な神経細胞と非常によく似た外観を呈するようになった。また、このニューロンは、宿主の細胞との接続を形成し、脳の他の部分からの電気信号を受け取ることができ、特筆すべきこととして、視覚刺激に対する応答も始まっていた。要するに、欠損していた皮質細胞のような外観と作用が移植されたニューロンに確認されたのだった。
この研究結果は、こうした「修復」が、通常は新しいニューロンを取り込まない成体の脳領域で起こったという点でも興味深い。今回の研究で得られた新知見は、軸索誘導を促す分子が成体の脳内で存続しているか、あるいは損傷後に再び活性化する可能性を示唆している。
doi:10.1038/nature20113
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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