【気候科学】西南極の氷河の地下に流れ込む暖かい海水
Nature Communications
2016年10月26日
2002~2009年に西南極の氷河から数百メートルの厚さの固く凍った氷が失われていたことを報告する論文が、今週掲載される。この新知見は、2000年代中頃にアムンゼン海の湾内の氷棚の下に流れ込む暖かい海水が著しく増えたとする仮説を裏付けている。
西南極のアムンゼン海の湾内にある氷河の融解速度は、地球上でトップクラスの速さだ。暖かい海水が、大陸棚を横切って氷棚の下にある空隙に流れ込み、特に氷河の接地線(氷河と海の境界線)付近の氷が徐々に侵食されていることが分かっている。しかし、これまでのところ、こうした氷の減少の正確な規模については、ほとんど定量化されていなかった。
今回、Ala Khazendarたちは、米国航空宇宙局(NASA)のオペレーション・アイスブリッジで収集された航空探査データを用いて、アムンゼン海の湾内にある3つの南極氷河(スミス、ポープ、コーラー)の融解速度と接地線の位置を調べた。Khazendarたちは、2002~2009年に氷河の融解が急速かつ不均一に起こり、スミス氷河で減少した氷厚の累計が約0.5キロメートルとなり、年平均で最大70メートルの速さで氷が失われたことを報告している。その後2009~2014年には暖かい海水の流入量が減り、ポープ氷河とコーラー氷河からの氷減少は鈍化したが、スミス氷河の接地線は後退して深い谷を形成し、大量の氷の減少の継続に寄与した。
以上の知見は、氷河の融解速度の観測値が、後退する氷河の位置と海洋熱流束の変動に左右されていることを実証している。
doi:10.1038/ncomms13243
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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