【医学研究】「ドリー」のクローンたちは健康に老化している
Nature Communications
2016年7月27日
体細胞核移植という技術で作製されたクローンヒツジが正常に老化することを示唆する研究論文が掲載される。今回の研究では、13頭の高齢のクローンヒツジ(世界初のクローンヒツジ「ドリー」の作製に用いられたものと同じ遺伝物質を使って作製された4頭を含む)の解析が行われたが、これは、大型動物のクローニングの健康影響に関する初めての長期的研究である。
クローンヒツジのドリーは、20年前の1996年7月に生まれ、6歳半という比較的若い頃に変形性関節症で死んだ。この結果は、クローン動物が普通に生まれた動物よりも早く老化し、より不健康な老化を起こすのではないかという懸念を生み出した。
今回、Kevin Sinclairたちは、13頭のクローンヒツジ(7~9歳)を調べた。そのうちの4頭は、ドリーと同じ乳腺細胞株の核を用いて作製されたクローン動物で、ドリーの事実上のクローン(ゲノムのコピー)とされる。Sinclairたちは、クローンヒツジの筋骨格系評価、代謝検査、血圧測定だけでなく、主な関節全ての放射線検査を行い、対照群のヒツジ(5~6歳)と比較した。これらのクローンヒツジは、いずれも健康体で現在も生きており、1頭だけが中等度の変形性関節症で、残りは軽度の変形性関節症にかかっていたが、代謝疾患の徴候は見られず、血圧も正常だった。
今回の研究では、これらのクローンヒツジと全く同じ品種と年齢の普通に生まれたヒツジを比較することや老化に関連する分子マーカーの測定は行われていないが、大型のクローン動物は正常に老化することを示すこれまでで最も強力な証拠が得られた。これらの研究成果は、クローニングの安全性とクローン動物の健康に対する長期的影響に関する重要な情報である。
doi:10.1038/ncomms12359
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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