薬物に関連する空間記憶の書き換えをマウスで実証
Nature Neuroscience
2016年2月23日
コカインと関連付けられた環境に関する肯定的な記憶を書き換えられることが明らかになった。記憶を人工的に操作できることは、これまでの研究で判明していたが、今回のマウスの研究では、そのような操作を薬物探索のような不適応行動の治療に利用できることが実証された。この研究の詳細を報告する論文が、今週のオンライン版に掲載される。
動物の海馬内ニューロンの一種である場所細胞は、その動物が環境中の特定の場所にいる時に活動する。また、動物が、薬物と特定の環境の関連性を想起すると、その薬物と関連付けられた場所を再び訪問するようになると考えられている。しかし、それぞれの場所細胞は複数の脳内表現に寄与するため、それらの脳内表現を選択的に編集することが、特定の場所と好ましくない行動の関連性を失わせる方法となるのかどうかは分かっていない。
今回、Stephanie Trouche、David Dupretたちの研究グループは、特定の環境とコカインを関連付けるようにマウスを訓練した上で、その環境とそれと類似した生理食塩水と関連付けられた環境のいずれかを選べるようにしたところ、そのマウスは、コカインと関連付けられた環境で過ごす時間の方が長くなった。次に、この研究グループは、遺伝学的技術を用いて、コカインと関連付けられた環境で活動した場所細胞を標識し、この場所細胞が光感受性タンパク質を発現するようにした。そして、マウスがコカインと関連付けられた環境と生理食塩水と関連付けられた環境を探索している際に、上述のように標識した場所細胞の活動を光によって抑制したところ、マウスは、コカインと関連付けられた環境に対する選好性を喪失した。この結果は、マウスの記憶が再符号化されて、この環境がコカインとの関連性を失ったことを示唆している。
doi:10.1038/nn.4250
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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