【動物学】ライバルの視線を察するワタリガラス
Nature Communications
2016年2月3日
ワタリガラスは、競争相手の姿が見えなくても、その競争相手が何を見ているのかを推測できることを明らかにした論文が、今週掲載される。この研究結果は、カラス科の鳥類がいわゆる「心の理論」(自分以外の個体の精神状態を予測する能力)を持っているという学説を裏付けている。こうした能力は、これまでヒトとヒト以外の霊長類だけのものと考えられていた。
鳥類に基礎的な心の理論があるのかどうかを検証しようとした過去の研究によって、アメリカカケスが、備蓄しておいた食料を盗むかもしれない競争相手の鳥に見られていると推測できることが判明している。しかし、そうした研究では、重要被験体のアメリカカケスが、手掛かりとなる競争相手の注視を観察している可能性(例えば、競争相手の視線をたどって、その先に食料があることを確認している可能性)を無視できなかった。
今回、Thomas Bugnyarたちの研究グループは、競争相手の姿が見えない条件下に置かれたワタリガラス個体の食物貯蔵行動を観察することで、この可能性を無視することができた。今回の研究では、完全に壁に囲まれ、小さなのぞき穴だけがついた実験場にワタリガラス個体を入れ、のぞき穴の反対側で別のワタリガラスが発する音の録音を再生して、このワタリガラス個体が他者に見られている可能性をシミュレートした。
ワタリガラスの音を再生したところ、実験場内のワタリガラス個体は、のぞき穴を通して競争相手に見られている可能性がある状況下でのやり方で食物を貯蔵し、生きている鳥の姿が完全に見えるようにした場合にも同じやり方で食物を貯蔵した。この結果は、ワタリガラスが、手掛かりとなる他の鳥の行動を解釈し、それに応答するだけでなく、自らの経験を一般化していることを強く示唆している。
doi:10.1038/ncomms10506
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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