三次元印刷で脳のしわの物理モデルを確かめる
Nature Physics
2016年2月2日
今週のオンライン版で発表される論文によると、人の脳の折りたたまれた構造は、生物学的現象ではなく、物理現象である可能性がある。三次元印刷技術を用いて、脳のこうした際立った特徴は力学的な圧縮に起因するとする異論の多いモデルが確かめられたのである。
1975年に提案されたこのモデルは、生物化学的要因が何もない場合、物理的な成長過程で脳の形状を説明できると示唆している。しかし、人の脳を使った実験には倫理的な問題が伴い、適当な代替手段がないため、このモデルを裏付ける証拠を得ることは難しかった。
今回Tuomas TallinenとLakshminarayanan Mahadevanたちは、ヒトの胎児脳の磁気共鳴画像に基づいて、軟質ゲルでできたモデル脳を三次元印刷することで、こうした困難を回避した。このモデル脳は、溶媒に浸けた時の膨潤度が異なるように設計されたさまざまな種類のゲルの層からなり、本物の脳の成長を模倣する。その結果、各層の相対的な膨張によって力学的な圧縮力が生じて、人の脳に見られるよく知られたしわの形成につながることが示された。著者たちは、数値モデルによって今回の実験結果の裏付けを得ており、物理的な力は神経発達に重要な役割を担い、多くの神経疾患の診断と治療に影響を与える可能性があることが、こうした結果から示唆されると結論づけている。
同時掲載のNews & Views記事で、Ellen Kuhlは、「実験的な証拠がないことが、神経科学界からこのモデルが批判される主要なポイントであった。今回の結果は、モデル、実験、シミュレーションの間の極めて重要なミッシングリンクを与えるものである。」と述べている。
doi:10.1038/nphys3632
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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