Research Press Release

【生態】サンゴと魚類の進化歴はどの程度守られているか

Nature Communications

2016年1月13日

サンゴと魚類の進化的多様性の大部分が現在の海洋保護区(marine protected areas; MPA)の全球的ネットワークに守られていない、という研究結果を明らかにした論文が掲載される。進化的多様性は、生物種の多様化以降の進化系統樹上の枝の長さの違いを表す指標だ。

1つの生態系に存在する生物種の総数は、その生態系の「健康状態」を測る正しい指標だと通常考えられているが、生物種間の進化的近縁性の指標も重要だ。近縁種は生態系において類似の役割を果たしている可能性が高いのに対して、明確に異なる生物系統は、生態系の機能にとって極めて重要な特異的役割や補完的役割を果たしている可能性があるからだ。

今回、David Mouillotたちは、世界中のサンゴ礁において進化歴がどの程度保護されているのかを定量化した。今回の研究で対象になったのは、805種のサンゴと450種のベラ科魚類で、いずれも海洋の生物多様性の重要な要素であり、進化歴が十分に解明されている。そして、Mouillotたちは、これらの生物種の地理的生息域がどの程度MPAのネットワークにカバーされているのかを算出した。次に、この地理的生息域に関連する共通の進化系統樹上の枝に存在する全ての生物種の進化歴が、どの程度MPAのネットワークにカバーされているのかについての評価が行われた。今回の研究では、サンゴ礁の場合には、総面積の5.9%が世界のMPAネットワークによってカバーされているが、既知の進化歴全体の1.7%しかカバーされていないことと、ベラ科魚類の進化歴全体の17.6%しか保護されていないことが明らかになった。つまり、サンゴの進化歴の約71億6000万年分とベラ科魚類の進化歴の35億8600万年分がMPAによって十分に守られていないのだ。

もともとMPAは、進化的多様性ではなく種の多様性を保全するために設定されたものだが、Mouillotたちは、進化的多様性が生物多様性の非常に重要な要素であり、見過ごされることが多いと主張している。

doi:10.1038/ncomms10359

「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。

「注目のハイライト」記事一覧へ戻る

プライバシーマーク制度