脳領域間の接続性のパターンを個人識別に利用する
Nature Neuroscience
2015年10月13日
脳領域間の接続性のパターンは人それぞれであり、そのパターンを指紋のように利用することで大勢の中から特定の個人を確実に識別できるという報告が、今週のオンライン版に掲載される。また、この接続性のパターンを用いて、個人の論理的思考能力や初めての状況下での素早い問題解決能力を予測できることも明らかになった。
これまでの神経画像研究では、一般集団における脳の機能に関する理解を深めるため、さまざまな集団の人々を対象として脳の活動が調べられてきた。しかし、2つの集団の差異を解析する研究では、脳の活動の個人差が見過ごされることが多い。脳領域間の接続性のプロファイルには人それぞれの特徴があるが、それを利用して大勢の中から特定の個人を確実に識別できるほど安定した特徴なのかどうかは、まだ分かっていない。
今回、Emily Finnたちは、ヒト・コネクトーム・プロジェクトの参加者126人のデータを用い、6回の画像化実験(参加者の安静時に2回、作業記憶課題、情動課題、運動課題、言語課題の遂行中にそれぞれ1回実施)のいずれかによって得られた接続性プロファイルを用いれば、その後に行われた実験で取得したプロファイルの中から特定の個人を発見できることを実証した。今回の研究では、安静時と課題遂行時の実験のいずれの場合にも個人識別に成功しており、全体的な接続性プロファイルが一人ひとりに固有なものであることが示されている。また、接続性プロファイルによる流動性知能(素早く論理的思考を行う能力と問題解決能力の指標)の予測が可能であることも明らかになった。認知制御と課題遂行中の接続性パターンの変化に関連する前頭葉、頭頂葉、側頭葉内の領域からなる前頭葉内側と前頭頭頂のネットワークは、個人差が最も明瞭に表れ、流動性知能の最も強力な予測因子であることが分かった。
今回の研究は、教育的介入と臨床的介入の個別化に利用し得る個人レベルの脳領域間の接続性マーカーとそれに関連する行動を発見できる可能性を明確に示している。
doi:10.1038/nn.4135
「Nature 関連誌注目のハイライト」は、ネイチャー広報部門が報道関係者向けに作成したリリースを翻訳したものです。より正確かつ詳細な情報が必要な場合には、必ず原著論文をご覧ください。
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