血液中の老化促進因子が記憶を損なう
Nature Medicine
2015年7月7日
循環血中に含まれていて、老化に伴って増加するタンパク質の1つが、学習と記憶を妨げている可能性が出てきた。この知見は、マウスとヒトについての研究から得られたもので、このタンパク質を標的にすれば老化による記憶喪失を防止できるかもしれない。
老化に伴って低下するのは学習や記憶の能力だけでなく、新しいニューロンの生成も低下していく。以前の研究で、老齢マウスに若いマウスの血液を注入すると、老化した脳での記憶障害が部分的に回復し、神経機能が改善されることが示唆された。老化に伴って血中に蓄積して記憶を損なう因子が見つかれば、記憶喪失を防ぐ治療が可能になるかもしれない。免疫機能に関連するタンパク質のβ2ミクログロブリン(B2M)は血液中に蓄積するが、成体の脳での老化関連障害にどのような役割を持つのかはこれまで調べられていなかった。
S Villedaたちは、マウスでもヒトでも高齢の個体では血液中のB2M濃度が上昇していて、この値は加齢とともに上昇することを見いだした。B2Mを欠失したマウスでは老化による記憶喪失が起こらないが、若いマウスにB2Mを注射すると、全身性投与の場合にも脳へ直接投与した場合にも学習と記憶課題の成績が低下し、新たに生じたニューロンの成長が抑制された。若いマウスからなる独立したコホートでは、B2Mによって引き起こされた学習や記憶の障害は30日後には認められなくなったことから、B2Mの認知機能低下に対する影響は可逆的なものだろうと考えられる。
doi:10.1038/nm.3898
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