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STAP細胞の小保方研究員に「研究不正行為」の判断が下る

原文:Nature オンライン公開)|doi:10.1038/nature.2014.14974|Stem-cell scientist found guilty of misconduct

David Cyranoski

これに対し、小保方研究員は、酸処理や機械的ストレスを用いて幹細胞を作製できるという主張を撤回しない意向を示している。

NPGよりお知らせ

Nature 2014年1月30日号641〜647ページ、および676〜680ページに掲載された小保方晴子氏ら(理化学研究所ほか)による論文2報について、論文中にいくつかの致命的な誤りがあることを理由に論文撤回の要請があり、弊社はそれを受理いたしました。

撤回理由は、Nature 2014年7月3日号112ページ、および下記URLをご覧ください(ウェブページが最新情報になります)。Natureダイジェスト 2014年3月号2〜3ページでも、これらの論文に基づいた記事を掲載しておりました。

STAP関連論文、撤回理由書

STAP論文に関する記者会見で頭を下げる理化学研究所の野依良治理事長。

Credit: Eugene Hoshiko/AP/Press Association Images

ストレスをかけて胚性幹細胞類似の細胞を作製する方法を主張する論文の疑義に関する調査を行っていた理化学研究所(理研)の調査委員会が、この論文の筆頭著者である理化学研究所の発生・再生科学総合研究センター(CDB;神戸)の小保方晴子(おぼかた・はるこ)研究員に研究不正行為があったとする調査結果を公表した。

一連の騒動に新たな展開だ。この騒動は、CDBに所属する研究者たちによる刺激惹起(じゃっき)型多能性獲得(STAP)という現象の発表に端を発したものだ。しかし、この調査報告で最終的に決着したわけではない。STAPによって、通常のマウスの成熟細胞が体内のあらゆる細胞に分化し得る胚性幹細胞の能力を備えるようになるという主張は、いまだに撤回されていないのだ。

STAP細胞に関する2本の論文は、小保方や日米の研究者らによってNature 2014年1月30日号に掲載された1,2。しかしその後、数多くの問題点が指摘されている(Nature ニュース・コメントチームと研究論文の編集チームは、編集体制が独立している)。

理研の調査委員会は、理研の研究者3名、大学の研究者2名、弁護士1名の計6名で構成され、STAP論文に関して疑義の上がっている6つの問題点について調査した。調査委員会は、そのうちの4点については不正がなかったとしたが、残りの2点については、小保方が誤解の生じる危険性を認識しつつデータ操作を行ったと認定し、研究不正行為があったと判断した。

画像の取り違え

4月1日午前の記者会見では、調査委員会が調査結果を公表し、午後の記者会見では、野依良治(のより・りょうじ)理事長をはじめとする理研の幹部が、理研の対応を説明した。小保方は、いずれの記者会見にも出席しなかったが、書面でコメントを発表し、この調査結果に対する不服申立を行うことを明らかにした。

小保方の論文に関する問題点の1つが、電気泳動ゲルを示した図で、この図では、レーンの1つに別の写真が挿入されていた。小保方は、その写真の方が見やすいために使ったのであり、問題だとは思わなかったと話している。調査委員会は、この画像の差し替えについて、誤解が生じる危険性を認識しつつ行われた操作と認定した。

また、調査委員会は、小保方が自らの学位論文で用いた画像をNature 論文に使用したことも研究不正行為と判断した。この学位論文の画像は、腫瘍の一種であるテラトーマの画像で、小保方は、ピペットを用いて細胞膜に圧力を加えることで作製した細胞が広範な発生能を持つこと示すためにこの画像を用いた。一方、Nature 論文中の画像は、学位論文同様に広範な発生能を示すものではあったが、論文中のこの画像に対する説明は「酸性溶液を用いて細胞にストレスをかけて作製された細胞」であった。小保方は、画像を取り違えてNature 論文に使ったと話した。これに対して、調査委員会は、画像の説明文が書き替えられていることを指摘して、これを捏造と認定した。

記者会見では、STAP技術が機能するのか、そして、その結果としてSTAP細胞が実在するのかという質問が繰り返されたが、その都度、調査委員会は、回答を避けた。「それは、我々の調査の対象外の問題です」。理化学研究所筑波研究所の分子生物学者である石井俊輔委員長は、そう答えていた。

また、小保方が書面で公表したコメントによれば、切り貼りされたレーンの画像を本来の画像に戻しても研究結果は何も変わらないとされる。「[データの]改ざんをするメリットは何もなく、改ざんの意図を持って、[問題とされる画像を]作製する必要は全くありませんでした。見やすい写真を示したいという考えから[問題とされる画像を]掲載したにすぎません」と彼女は記している。学位論文で用いた画像の重複利用は、類似した画像だったことによる「単純なミス」だったとされる。このミスについては、小保方自身が発見し、Nature に訂正論文を提出したとも記されている。

石井委員長は、問題のテラトーマのスライドについて、Nature 論文で報告された実験で得られたものとして小保方から提供されたと説明している。しかし、ずさんなデータ管理と実験室内でのサンプルのラベル表示が不適切であったため、「その由来を正確に追跡することは不可能だ」とも話している。

Nature の広報担当者は、「Nature は、いかなる論文の訂正や撤回に関してもコメントしません。Natureは、これらの論文に関係する全ての問題点を極めて真摯に受け止め、独自の詳細な評価を行い、理研の調査結果の検討を行っております。現時点では、これ以上のコメントはできません」と話している。

一方、小保方は、調査委員会による研究不正の認定には「承服できません」とコメントし、近日中に不服申立を行う予定であることを明らかにした。

波及効果

調査委員会は、笹井芳樹(ささい・よしき;CDB)、丹羽仁史(にわ・ひとし;CDB)、若山照彦(わかやま・てるひこ;昨年、CDBから山梨大学に転出した)の3名の共著者の関与についても調査した。

笹井は、小保方の論文執筆に協力し、CDBの若山の研究室に当初在籍していたのが小保方だった。彼女は、その後、独立した研究ユニットのリーダーとなった。調査報告書によれば、笹井と若山は、研究不正行為への関与はなかったが、データのチェックを怠った責任は重大とされた。

笹井も若山も今回の調査結果を受けて書面でコメントを出しているが、笹井の公表したコメントでは、「疑義を生じたデータを除いてみたとしも、その他のデータで刺激惹起性多能性獲得を前提としないと説明が容易にできないものがある」と、STAP現象に対する信念があらためて記されていた。

丹羽について、調査委員会は、論文作成の遅い段階で研究に参加したため、不正は認められないとした。

理研の記者会見では、それ以上の調査が行われなかったことに対する記者の不満が聞かれた。調査委員会は、調査対象を6つの問題点に限定したが、それ以外にも問題点は指摘されていた。例えば、若山は、実験プロトコルの重大な不備を特定し、あるいはNature 論文での主張を裏付ける可能性のある遺伝子検査をすでに開始しているが、調査委員会は、小保方の研究室で得られたSTAP細胞と主張される細胞に関して、類似の遺伝子検査を行っていない。それどころか、調査委員会は、入手できている材料について明確な回答を示さなかった。

小保方が実際に実験を行ったことを示す証拠があるのかどうかを聞かれた石井委員長は、「そのことを何らかの厳密性をもって言うことが難しい」と答えた。彼女が提出した2冊の実験ノートに、日付やその他の重要な情報が書かれていないからなのだ。これまでに多くの若手研究者を指導してきた石井だが、「これほどの不注意を経験したことはありません」と話す。

理研では、今後、懲戒委員会を設置して、小保方と共著者の処分を決定する方針だ。一方、CDBの相沢慎一特別顧問と丹羽が主導するチームが、今後1年をかけて、STAP技術の検証を行うことになっている。成功例があれば、第三者による相互チェックが行われる予定だ。

香港中文大学の発生生物学者 Kenneth Lee は、小保方のプロトコルにできるだけ忠実に従って彼女の研究結果の再現を試みたが、4度の試みは、すべて失敗に終わった。Leeに対して、理研がSTAP細胞の作製にもう1年費やすべきかどうかを尋ねたところ、「それに取り組むという決断は妥当だと思いますが、彼女の方法ではダメです」という答えだった。

4月2日には、野依理事長が、「研究不正行為の確認された1編の論文について撤回を勧告」するという内容の電子メールを理研スタッフ宛に送った(ただし、論文撤回の最終決定権は、著者とNature が有している)。また、野依は、理事長を本部長とする研究不正再発防止改革推進本部を設置し、その下に設置される「外部有識者委員会で、データ管理から研究成果の論文発表までの理研の研究手順を評価する」ことを明言し、これに加えて、「研究倫理教育のあり方を根本から考え直して」、「効果的な教育プログラム」を導入するとも述べた。

(翻訳:菊川要)

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