Event Reports

第12回 変われるか、ニッポン?
- 変革を迫られる大学・研究機関 レポート

日時:2013年8月9日(金)
会場:(株)ソニーコンピュータサイエンス研究所
共催:沖縄科学技術大学院大学(OIST)
協力:(株)ソニーコンピュータサイエンス研究所

21世紀の国際社会を生きぬくために、今、理系学生に求められていることは何か。世界で活躍する4人のパネリストが、自身の体験をもとに、学生たちに語りかけた。モデレーターは毎日新聞社の元村有希子氏。

当日の様子
当日の様子
当日の様子
当日の様子

自分が変わらなければ、世の中変わらないよ
— 黒川 清

黒川 清

黒川 清

「自分が変わらなければ、世の中変わらないよ」、パネリストの黒川清氏は開口一番、会場の学生たちに言い放った。「変われるか、ニッポン?」というテーマを受けての言葉だ。大学や指導教授、あるいは研究システムに対して、不満があるかもしれない。これじゃだめだと思っているかもしれない。けれど、そうしたものは、自らはなかなか変わらない。変わる可能性があるのは若い人たちだ。あなたたちが変わることが、日本を変えていく原動力になるのだ、と黒川氏は続けた。

では、自分が変わるにはどうしたらいいか。それには、外国に行ってみることだ。それが今回の Nature Café の結論。「いや、自分は変わる必要なんかないさ」と思っている人も、一度は、海外に出てみるといいらしい。日本から出てみることは、発見の絶好のチャンスなのだ。4人のパネリストたちが教えてくれた。では一体、何が発見できるって?

体験することで、研究開発のテーマが発見できる
— 北野 宏明

北野 宏明

北野 宏明

その前に、パネリストを紹介しておこう。冒頭の黒川清氏。政策研究大学院大学アカデミックフェローをはじめ、数々の肩書きを持つが、元々は内科医師。30代で米国に留学したところ、そこでの仕事がおもしろく、結局15年間滞在。UCLA教授、東京大学教授などを歴任した。

北野宏明氏は大学卒業後、NEC に入社するが、4年後には米国のカーネギーメロン大学で本格的に研究を始める。現在は、ソニーコンピュータサイエンス研究所(ソニーCSL)の社長・所長だ。

帰国子女だった村山斉氏は、周囲を気にする日本の生活になじめず、大学院終了後に米国の大学へ就職。そこで「自分らしくいられる」と実感。現在は、カリフォルニア大学バークレー校教授と東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構長を兼任し、1年の2/3を米国ほか日本国外で過ごす。

杉山(矢崎)陽子氏は、大学院・助手を経て、米国のデューク大学でポスドクとして研究。その後、理化学研究所BSIを経て、沖縄科学技術大学院大学(OIST)准教授として鳥のさえずりを研究する神経科学者。

行って初めてわかることがある

その場所に実際に行って、身をおいて、初めて気づくことがある。インターネットを通して世界中の情報が手に入る現代だが、それでも、行かなければわからないことがあるのだ。

本から学んだ論理ではなく、遊びや経験を通じて得た直感をもとに実験を組み立てることも重要
— 伊藤 穰一

伊藤 穰一

伊藤 穰一

北野氏は、「体験することで、研究開発のテーマが発見できる」という。地球上のさまざまな風土、社会、価値観に接し、そこで何ができるか、何が必要とされているかに気づくことが大切なのだという。例えば電力供給システムの開発で、「ガーナの無電化村で、サッカーのワールドカップの試合2 時間強を上映する実験を行い、先進国とは異なる環境における電力供給の課題を明らかにすることができた」そうだ。なお、ソニーCSLの研究開発に関しては、Nature Café 開催前にソニーCSLの厚意で行われたラボ見学とレクチャーでも紹介されたが、常識にとらわれない型破りな研究姿勢が印象的だった。

自分を発見できる

海外に出ることは、自分自身を発見するチャンスでもある。好きなことなら夢中になれる、好きなことをテーマに選ぼう、というアドバイスがよくあるが、一方で、自分が何をしたいのか見いだせないこともあるだろう。そんなときにも、「世界に飛び出せば、自分が見つかるかもしれない。自分が目指したい“ロールモデル”に出会えるチャンスも増える。日本を違った視点で見ることもできるようになる」と黒川氏。

日本とは、自分と異なる者を受け入れない国ではないか
— 村山 斉

村山 斉

村山 斉

出会えるのは人物だけではない。文化や環境なども、自分に合ったものが見つかる可能性が広がるだろう。村山氏の場合は、個人の責任を尊重し、自己主張が重要視される米国の文化に接し、自分らしさが取り戻せたと自身の体験を紹介してくれた。「どこの研究室に属しているの?」ではなく、「何を研究しているの?」と聞いてくれる米国の文化が好きだという。

世界には実に多彩な研究所があるのだということは、スペシャルゲストとして参加してくれた、米国MITメディアラボの所長、伊藤穰一氏の話からも伝わってきた。その研究所では、他に受け皿がないいわば「仲間はずれ」のテーマや人材を集め、学際的な研究を行っているのだという。本から学んだ論理ではなく、遊びや経験を通じて得た直感をもとに実験を組み立てることも、重要視しているという。

日本が見えてくる

外から見ると、日本の再発見もできる。「外国と比較することで、日本のいい点・悪い点がはっきりと見えてくる」と杉山氏。

村山氏は、自身の体験にもとづき、「日本とは、自分と異なる者を受け入れない国ではないか」と指摘し、それでは国際社会ではやっていけないという。「国際的」の本質は、異なる者どうしが一緒になり、協力しあうことなのだから。そして、「本当にいい研究をしようと思ったら、ベストな人材は、さまざまな国籍にまたがるのが当たり前」(村山氏、北野氏)。

一生懸命研究していれば、否応なく世界につながっていかざるを得ない
— 杉山 陽子

杉山 陽子

杉山 陽子

杉山氏は、「たとえ日本の研究室にいても、目の前のことを一生懸命研究していれば、否応なく世界につながっていかざるを得ない」と、日々の研究活動を説明した。英語で研究成果を発表し、海外の研究者と交流し、その研究分野を国際的に動かしていくのが研究者としての生活だという。

ちなみに杉山氏が所属するOISTは、教員と学生の半数以上が外国人で、公用語が英語というユニークな大学院大学だ。Nature Café を共催するOIST副学長代理の森田洋平氏は閉会の挨拶の中で、「OISTでは学生が参加できる国際的なワークショップを頻繁に開催しています」と言及した。学内で国際交流が積極的に実践されている様子が伺えた。

パネリストらの実体験にもとづいた率直な言葉は、リアリティとユーモアを持って、聞く人の心にストレートに響いた。今回の Nature Café の参加者は、主に25歳以下の理系学生である。閉塞感が漂う社会、旅費や学費の工面といった経済的問題が立ちはだかるといった現実があっても、海外を体験せよ、外に出てチャンスをつかめ、というメッセージは鮮烈であったようだ。質疑応答では、会場からの質問が途切れず、その後に行われた懇親会でも、学生たちがパネリストらをつかまえ、熱心に語りかけていた。

文:藤川良子(サイエンスライター)。

第12回 Nature Café レポート PDFダウンロード

このレポートは、Nature ダイジェスト 2013年10月号に掲載されています。

政策研究大学院大学アカデミックフェロー
沖縄科学技術大学院大学学園理事
日本医療政策機構代表理事
IMPACT Japan Chair and Founder
GHIT会長・代表理事

東京大学カブリ数物連携宇宙研究機構 機構長
カリフォルニア大学バークレイ校マックアダムス 冠教授
ローレンス・バークレイ国立研究所 上級研究員

株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所 代表取締役社長・所長
沖縄科学技術大学院大学 教授(Adjunct)
特定非営利活動法人システム・バイオロジー研究機構 代表

沖縄科学技術大学院大学 准教授

米国MIT メディアラボ所長

毎日新聞科学環境部 編集委員

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