Primer

鉤虫感染症

Nature Reviews Disease Primers

2016年12月8日

Hookworm infection

鉤虫感染症
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鉤虫(hookworm)はヒト宿主の小腸に長年にわたり寄生できる土壌伝播性線虫である。ヒトに感染する鉤虫では、アメリカ鉤虫(Necator americanus)が優勢種である。成虫は宿主の血液を吸引するため、特に高リスク集団(小児および出産適齢期の女性)の鉄欠乏性貧血の原因になることがある。熱帯地域の発展途上国では約5億人が感染しており、シミュレーションモデルでは、鉤虫感染症によって失われる障害調整生命年は毎年400万以上に上ると推定されている。鉤虫が体内に侵入すると免疫反応が生じるが、成虫を腸から排除することはできない。このため、宿主は免疫寛容の状態に切り替わり、鉤虫は長年にわたって腸内に寄生することができる。現在、駆虫薬が広く使用されているが、有効性はさまざまで、再感染までは防止できない。そのため、水質、公衆衛生および衛生状態の改善など、薬物治療以外の管理戦略が求められている。ほかにも、ヒト鉤虫ワクチンの開発も官民のパートナーシップを通じて進められている。一方で、鉤虫には資源としての一面もある。 鉤虫には宿主の炎症を調節する働きがあるため、新しい抗炎症分子を探索するアプローチとして、一部の炎症性疾患の治療を目的に患者を実験的に感染させる試みが行われている。この研究領域が自己免疫疾患やアレルギー性疾患の新たな生物学的製剤の開発につながることが期待される。

PrimeView
鉤虫は土壌からヒトに感染する寄生虫で、小腸内で長年生存するだけでなく、増殖することもある。このPrimeViewでは、鉤虫の血液吸引方法、ならびに、宿主の免疫系および共生微生物との複雑な相互作用を中心に取りまとめる。
本Primerの図解サマリー

doi:10.1038/nrdp.2016.88

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