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変形性関節症:手指変形性関節症の至適治療に関する最良のエビデンス

Nature Reviews Rheumatology

2011年4月5日

Osteoarthritis Best evidence for best therapies in hand osteoarthritis

手指変形性関節症の治療には非薬物療法が重要である。しかし、臨床ガイドラインの根拠とすべき質の高いエビデンスは少ない。そのような研究を集めたシステマティックレビューは、この分野の研究の長所とギャップに焦点をあてている。

Yeら1は最近、手指変形性関節症(手OA)の疼痛や機能、身体障害に対するリハビリテーションの効果を、質の高い臨床試験から得られる最良のエビデンスをシステマ ティックレビューで分析し、示している。その結果は臨床における治療決定の一助になると思われるが、同時に土台となる推奨事項に関して、質の高いエビデンスが 不足していることを浮き彫りにした。

良い臨床診療は質の高いエビデンスに基づくべきであると一般に認められているが、Yeらはこの点を念頭におき、以下の項目についてシステマティックレビューを実 施した。第一に、質の高いエビデンスのみを特定・評価するために、手OAに対しリハビリテーション介入を行った研究の質を検討した。第二に、これらのリハビリテー ション介入の効果を、手OAを有する成人を対象に特定の評価項目(手の疼痛、握力、可動域、こわばりと機能など)について評価した。第三に、特定の目標達成を 目的とした様々なリハビリテーション介入について、エビデンスに基づく知見の提供を試みた。痛みや身体機能、障害を評価項目として、リハビリテーションと対照 群を比較した研究成果を分析に用いた。その結果、選ばれた10件の研究(運動に関する研究3件、レーザーと温熱による介入の研究各2件、スプリント、マッサージ および鍼治療に関する研究各1件)のうち6件が質の高い研究として評価された。

これまで手OAに焦点をあてたシステマティックレビューがいくつかあったが、そのうち保存的治療を取り上げている5件についてYeらが簡潔に論じている。さらに、Kjekenらは、手OAに対するスプリントのデザインと運動プログラムについて2011年にレビューを行っている。各システマティックレビューはそれぞれやや異なる問題を提起し、異なる研究を取り上げ、質的に異なる評価ツールを用いているが、いずれも手OAに対する非薬物療法に関するエビデンスが少ないことについては、意見がほぼ一致している。

Yeら1は、運動療法の効果が不確実であることを強調している。様々な研究の結果を比較する上で起こる障害の一つに、運動プログラムの内容と運動量のバラツキがある。加えて一部の研究では、プログラムの強度について詳細を正確に報告していなかった。Yeらも指摘しているが、対象とした研究の中には、握力強化運動を組み込んだプログラムで、握力改善はもたらさずに可動域の改善効果を認めたのに対し、可動域改善が目的の運動を組み込んだプログラムで、結果として握力の改善が得られたものもあった。Yeらは、握力増加が特に認められなかったことから、握力強化目的の運動では改善をもたらすには不十分な強度であった可能性があると結論づけている。この結論は他の研究2の結論とも一 致している。作業療法士らはこの結果を受けて、コンセンサスが得られた運動をもとに、エビデンスに裏づけられた手OAに対する運動療法の推奨事項3を作成するこ とになった。作業療法士によるこの推奨事項は、OAに対する手の運動の効果的な運動量と強度を明らかにするために、今後、無作為化試験によって検討される必 要がある。

手OAに対する保存的治療を対象としたシステマティックレビューで、一致したもう1つの知見は、関節保護に関する患者教育を、運動と組み合わせる重要性である。この結論は、運動プログラムに関節保護教育を組み合わせた場合に、手の機能が改善したことを報告したStammらの研究結果に基づくものである。では、両者のアプローチの独立した効果はそれぞれ何だろうか。英国内で最大規模の関節症研究基金であるArthritis Research UKは、運動と関節保護教育の独立した効果について、また両者を組み合わせた場合の費用対効果についての研究を支援している。この研究の結果は2011年に出る予定で、スプリント装着を追加した場合の臨床的有効性の評価およびプラセボスプリン ト装着の効果の評価を目的とした、本基金支援の第二の研究が実施される予定である。

Yeら1のシステマティックレビューによる知見は、既存の推奨事項に何を加えるのであろうか。手OA患者に対する注目すべき2つの推奨事項は、2007年の欧 州リウマチ学会(EULAR)によるエビデンスに基づく手OAの管理についての推奨7と、2008年の英国National Institute of Health and Clinical Excellence(NICE)による成人OA患者のケアと管理についてのガイドラインである(筆者もそれぞれ参加している)。EULAR作業部会の策定した11の推奨事項では、手OA患者に対する17種類の薬物療法および非薬物療法を取り上げられており、その中には関連情報とアドバイス、運動療法、関節注射と手術などが含まれている。EULARガイドライ ンの作成グループには、リウマチ専門医16名、リハビリテーション医1名、整形外科医1名、コメディカルスタッフ2名、およびEBM専門家1名と、欧州15ヵ国から多分 野のメンバーが参加していた。NICEによるOAガイドラインは、18名の医療専門家、患者、文献レビューアー、情報専門家、医療経済学者および統計学者により作成 されたもので、非薬物療法、薬物療法、成人のOA患者がプライマリケア医と専門医から提供されるべき助言と支援について述べている8。NICEの推奨は、診断、教育、 運動、自己管理の支援、および代替療法についての推奨事項を取り上げている。表1に、Yeらのシステマティックレビューの知見を、EULARとNICEの推奨の対応個 所と関連付けて示す。

表から明らかなように、運動と関節保護教育やスプリント装着は手OAの非薬理学的治療に重要な役割を担うことについては意見が一致しているが、電気療法と温熱療法に関する勧告には相違がみられる。電気療法の種類に関してYeらはレーザー療法を、EULARは超音波治療を、NICEは経皮的末梢神経電気刺激(TENS)を勧めている。超音波およびTENSについては、Yeらが評価にふさわしいとした研究はなかった。興味深いことに、Yeらが取り上げたレーザー療法の研究は、EULARとNICEの両ガイドライン作成グループのレビューでも利用されていた。それにもかかわらず、両者の結論になぜ食い違いが生じたのだろうか。エビデンスが存在しない場合は、専門家の意見とコンセンサス形成とい う方法でガイドラインが作成される。EULARガイドラインで取り上げられた超音波による治療は、欧州15ヵ国の専門家間のコンセンサスを反映しているものの、超音 波のみを推奨することについては部分的な合意しか得られなかった。NICEのガイドラインでTENSが取り上げられたのも、対象読者として医療専門家とプライマリケア 医を想定したこと、患者代表の意見が含められたことを反映している。

一般集団において手OAの有病率が高く、そして患者に及ぼす影響が強いにもかかわらず、手に問題を抱えた患者はたとえ症状が重くとも、わざわざ家庭医に足を運ぶことは少なく、理学療法や作業療法を紹介される患者はさらに少ないであろう。手に問題を有する患者は、「手OA」という診断を深刻な状態と受け止め、手立てはないものと思っている。しかし、薬物療法(非ステロイド性抗炎症薬のジェルの局所塗布など)と非薬物療法を組み合わせるなど講じるべき手段はある。課題は、このようなアプローチを診療に導入することである。

Yeらのシステマティックレビューは、先行するレビューの知見に加わるものであり、手OAの治療法を決定するにあたって、エビデンスに基づいた選択肢を提供するも のである。全体的に、手OAの治療に関して行われたシステマティックレビューによって得られたエビデンスは期待外れであり、一部の治療法のエビデンスには相違があ る。これからすべきことは、これらの相違点に焦点をあて、手OA患者の治療効果を高められるような、手のエクササイズとスプリント装着と組み合わせた関節保護 をいかに診療に導入していくかを検討すべきである。

doi:10.1038/nrrheum.2011.44

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