Research Highlights

炎症性関節炎モデルマウスにおけるDickkopf-1遮断による骨バランスの回復

Nature Reviews Rheumatology

2010年12月1日

Bone Bone balance restored by blocking Dickkopf-1 in a mouse model of inflammatory arthritis

健常な関節では、破骨細胞による骨吸収と骨芽細胞による骨形成の間のバランスが維持されている。しかし、慢性関節炎で生じる炎症時には、このホメオスタシスが障害され、バランスは骨吸収が増える方向に傾く。Erlangen-Nuremberg大学( ドイツ)のJochen Zwerinaは、「関節リウマチ患者の全身の骨量減少は骨折の原因となり、その発生率を高めているが、慢性関節炎時の骨量減少の理由はよくわかっていない」と話している。Annals of the Rheumatic Diseases に発表されたZwerinaらの論文によって、この疾患における骨量減少の病態生理学に注目が集まり、Wnt阻害因子Dickkopf-1(Dkk-1)が炎症性関節炎における全身の骨量減少を軽 減する治療の標的になり得ることが示されている。

腫瘍壊死因子(TNF)やインターロイキン(IL)-1 などの炎症誘発性サイトカインは、直接、破骨細胞を活性化し、また骨形成を阻害することが明らかになっている。「われ われは、この研究より前に、関節炎モデル動物ではTNFとIL-1が全身骨量減少の強力なメディエーターであり、Wntシグナル伝達経路がTNFを介した骨量減少において 重要である可能性を示していた」とZwerinaは話している。

この研究で著者らは、TNFトランスジェニック(hTNFtg)マウスにおいてDkk-1の機能を阻害した場合の影響を調べた。これらのマウスはTNFを過剰発現し、 全身性骨減少症および炎症性関節炎を発症する。ヘテロ接合型hTNFtgマウスおよびその野生型同腹仔に、溶媒のみ(プラセボ)、抗TNF抗体、抗Dkk-1抗体、または抗 TNFと抗Dkk-1抗体の両方を4週間投与し、その後、組織形態計測解析および組織学的解析を行った。予想通り、海綿骨の骨量はhTNFtgマウスが野生型マウスより 低かった。hTNFtgマウスに抗Dkk-1抗体を投与すると、骨量が正常化したが、それは骨の海綿状組織の数と密度が増大するとともに骨石灰化速度が正常化した結果で あった。

このように、この状況ではDkk-1の遮断により、TNF誘導性の骨量減少が抑制されるようであるが、それは骨形成が強化された結果なのか、それとも骨吸収が妨げられ た結果なのだろうか。さらに解析したところ、野生型の対照マウスに比べ、hTNFtgマウスの方が骨芽細胞に覆われている骨の領域が減少し、破骨細胞に覆われている領域 が増大していることが明らかになった。抗Dkk-1抗体を投与すると、hTNFtgマウスにおいて骨表面積あたりのこれらの細胞の数が正常化した。さらに、Dkk-1の阻害により、 β- カテニン蛋白、オステオプロテゲリン(破骨細胞形成の阻害因子)、オステオカルシン(骨を構成する分子)メッセンジャーRNAの濃度が上昇し、この治療によって骨形 成が増大し、骨吸収が減少することが示唆された。

次に、野生型のマウスから分離した骨芽細胞を用いて骨芽細胞の初代培養実験を行い、Dkk-1下流のシグナル伝達経路をより詳しく調べた。骨芽細胞がTNFの刺 激を受けるとDkk-1濃度が増し、それに続いてスクレロスチン(SOST、もう一つのWnt拮抗物質)の濃度上昇が認められた。これらの培養細胞中のDkk-1遮断により、 TNFによるSOSTの促進が妨げられ、またTNFによるアルカリホスファターゼ活性の低下を遮断することにより、骨芽細胞生成が増加するようである。組換えDkk-1蛋 白質を追加するとSOST濃度上昇が認められた。こうした実験から、Dkk-1はSOSTの発現を直接制御することで骨芽細胞分化においてある役割を担っている可能性 があると著者らは結論づけた。in vivo の実験からもこの考えは支持された。骨細胞SOST mRNAおよび蛋白濃度、骨細胞死の程度は、hTNFtgマウスの方が同腹の 対照マウスより高かった。Dkk-1を阻害することで、骨細胞死減少、骨細胞におけるSOST濃度低下につながった。Zwerinaは「TNFは、強力に骨形成をダウンレギュ レートし、Wnt拮抗物質であるDkk-1とSOSTの発現をアップレギュレートすることをわれわれは見いだした。炎症が進行中であっても、Dkk-1阻害により骨量減少 が防止されることから、Dkk-1阻害は炎症性骨量減少の治療法として考慮できるという結論に達した」と説明し、「今後の研究では、関節炎時の骨形成障害のメカニズム に的を絞っていく」と付け加えた。

doi:10.1038/nrrheum.2010.183

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