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治療:RAの疾患経過に挑戦する:薬剤フリー寛解の時が来たか

Nature Reviews Rheumatology

2010年8月1日

Therapy Challenging the course of RA time for drug-free remission?

関節リウマチに対する薬物療法の漸減や中止は、安全性と経済性に加え患者の意向を考えると、魅力的な治療目標である。しかし、薬物治療を漸減または中止した結果については、全くわかっていない。低疾患活動性状態が達成できた患者に対し、腫瘍壊死因子阻害薬の投与中止が実行可能な選択肢となるかどうか、 日本で行われた多施設共同試験で検討された。

Tanakaらは、最近行った研究で、診断が確定した関節リウマチ(RA)患者が、有効であった腫瘍壊死因子(TNF)阻害薬を安全に中止することができるかどうかを検討した。 そしてTanakaらは、インフリキシマブにより低疾患活動性状態が6ヵ月以上継続している患者は、投与を中止しても約半数(評価例数102例中56例、55%)は、それ以後さら に12ヵ月間低疾患活動性状態を維持するというエンドポイントに到達することが可能であったと報告した。

わずか10年前までは、RA患者が低疾患活動性や寛解を維持することは、とても達成できないことであった。幸いなことに、いくつもの新しい治療法が開発され、RAの治療 戦略に関する研究が行われた結果、近年このような状況は変化している。しかし、新しい治療法の成功によって、RAの治療戦略は、RA治療の歴史上初めて、治療中止という 問題が本気で提起される新しい転機を迎えた。

やっとのことで満足できる治療結果を得ることができたのに、なぜ、投与中止のことを考える必要があるのだろうか。糖尿病や高血圧といった他の慢性疾患とは異なり、RA には、治療によって疾患の自然経過を変えるといわれている。したがって、薬物治療に伴う安全性への懸念と、治療薬の量を減らして欲しいという大多数患者の妥当な意向を 考慮すると、治療を中止するといういかなる試みにも正当性がある。もう1つの理由は費用であり、特定の分子を標的としてデザインされた最新の薬剤について考えるときは特 に非常に重要となる。しかし、従来のDMARDを用いた治療中止の試みは、これまでことごとく失敗に終わっている。

過去に行われた薬剤中止の試みが失敗した1つの理由は、患者の寛解が不完全であり、炎症の制御が不十分なためにRAが再燃したと考えられる。事実、Tanakaらは、ロジス ティック回帰モデルと受信者動作特性曲線(ROC曲線)解析を用いて、インフリキシマブ投与中止時にDAS28が2.225未満であることが、12ヵ月後の成功を予測するための、最 善のカットオフポイントであると結論づけた。注目すべきことに、このカットオフポイントは、現在寛解の基準とされている数値(DAS28=2.6)よりも低値である。また、詳細な解析では、持続的な低疾患活動性状態(DAS28<3.2)や寛解状態にある患者群においても、TNF 阻害薬の投与中止成功の可能性は、投与中止時の総合的な疾患活動性 のレベルによることが強く示された。つまり、「単に」寛解状態にある患者といえども、疾患活動性の徴候が完全にない患者と同様に治療を中止できるわけではないということ である。

この結果から低疾患活動性の患者であれば治療が漸減できる、または漸減すべきであると結論づけるのは、時期尚早であろう。現在のところ、RAの治療戦略の目標は低 疾患活動性とされている。最近は、特に構造的なアウトカムを考慮した場合、寛解を全てのRA患者の主要目標とすべきことをはっきりと推奨している。一方、TNF阻害薬 による治療中の構造的損傷の進展防止は、低疾患活動性の達成でも可能であることが示されている。これは従来のDMARDでの治療には適用されない事実である。ではもし そうならば、低疾患活動性状態が達成されれば、TNF阻害薬を安全に投与中止できるだろうか。答えは「たぶんそうであろう」である。Tanakaらの研究1では、TNF阻害薬中止後の構造的損傷の進展抑制効果の維持に関する結果は不明なままである。彼らは、薬剤中止に成功した患者では、総sharpスコアが0.3しか増加しなかったことを報告した。こ れは、少なくともこの試験では、構造的損傷の進展停止(すなわちsharpスコアの年間増加0.5ポイント未満)を達成したということである。しかし、TNF阻害療法を中止するかどうか考慮している臨床医の観点から見れば、治療中止の失敗も考慮する必要がある。この日本の試験の場合、TNF阻害療法中止に失敗した患者は、治療中止に成功した患者に 比べて、構造的損傷が5倍進行していた。ただし、治療中止に失敗した患者でも、全体としての構造的損傷の進行の程度は比較的低かった(1年間で1.6ポイントの増加)。

早期RAに関しては、Leedsの研究5およびオランダのBeSt trialの二次解析6(これらはTanakaらも引用している)で、TNF阻害薬を中止すると、短期間ではあるが、臨床成績が維持されることが示された。Tanakaらの研究は、この考え方を、日常診療に即した患者集団(すなわち、長期RA罹病患者)に適用することで、さらに発展させた。しかし、最近Brocqらは、平均罹患期間11年のRA患者を対象としたオープンラベル試験7を行い、DAS28で定義した寛解が6ヵ月以上持続した後、TNF阻害療法を中止した。この試験の結果は、Tanakaらが報告した結果と明らかに対照的であり、75%(20例中15例)の患者が、TNF阻害療法中止12ヵ月後に、寛解状態を維持していなかった。Tanakaらの研 究でも示されていた「疾患活動性が低ければ低いほどよい」という概念を受けて、Brocqらは、寛解期間およびTNF阻害療法実施期間が長いことは、1年後の寛解維持の正の予 測因子であることを明らかにした。Tanakaらの研究は前向きであるためBrocqらのオープンラベル試験よりも高いレベルのエビデンスが得られる。長期RA罹病患者を対象と したこれらの2件の試験の結果の明らかな不一致は、時期尚早な結論を出すことに対して警鐘を鳴らしている。

ヘルスケア費用の高騰を考慮すると、節約の可能性を求めることは、特に薬剤のコストが高い場合、常にとるべき適切な行動である。しかし同時に、すでに機能に軽度の 障害がある患者(HAQ-DI>0.6)においてコストを増加させている主因は、治療コストではなく、生産性の喪失であることが明らかである。この点に関して、経済的理由によって薬剤の投与中止を重要視することは、予測される身体的機能の悪化とのバランスをとりながら行う必要がある。したがって、RA管理の主要な焦点は、身体的機能の維持で あるべきである。事実、この分野ではさらに研究を行って、政策立案者に情報を提供し、リウマチ学会からの勧告を作成することが必要である。近い将来、われわれの治療に対 する考え方は、高価な治療の適用を制限することから、高価な治療をいつ中止するかまたはいつ中止を試みるかに関する明確なガイダンスを提供することへと変わると考えられ る。Tanakaらのデータは、この戦略が正しい対象患者に適用されるならば、早期RA患者だけでなく、長期RA罹病患者(この慢性疾患において最も多い患者群)に対しても、 薬剤フリー寛解が実現可能な目標であることを示す他の研究のデータを増強している。ただし、正しい対象患者の定義はまだ完全に明らかにはされていない。

doi:10.1038/nrrheum.2010.101

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