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薬物療法:RAに対するさまざまな生物学的製剤をいかに適切に比較できるか

Nature Reviews Rheumatology

2010年5月1日

Pharmacotherapy How well can we compare different biologic agents for RA?

関節リウマチの治療に用いられるさまざまな生物学的製剤の有効性と安全性を直接比較した例がないことを考えると、一度に一つの製剤を評価した系統的レビューを比較することは可能なのであろうか? それとも、試験間の不均一性によって、このようなアプローチの有用性は限られてしまうであろうか?

生物学的製剤は、10年以上にわたって関節リウマチ(RA)の治療に用いられている。同製剤の使用によって、治療選択肢が飛躍的に広がり、それまでにない臨床的、 構造的、機能的改善が得られている。最初に成功を収めた生物学的製剤は腫瘍壊死因子(TNF)を標的とし、その後、anakinraによるインターロイキン1の阻害、リ ツキシマブによるB細胞枯渇、アバタセプトによる共刺激阻害が続いた一方、最近この製剤の仲間に加わったトシリズマブは、インターロイキン6受容体を標的とする。 合成DMARDより多くの生物学的DMARDが利用できるようになるとともに、これらの製剤の総合的および相対的な有効性と安全性の認識が重要になっている。メタ解析とシステマティックレビュー(systematic literature review:SLR)は、そのための優れたリソースである。Cochraneレビューは、その方法論や包括性から、「医療介入効果に関するエビデンスにおける、単一で最良のソース」として認められている。

Singhら2は最近、その究極といえるCochraneレビューを発表した。RA向け生物学的製剤に関するCochraneレビューの極めて有用な概説である。これが特に有用 であるのは、著者らが、生物学的製剤はRAに有効かという疑問だけでなく、いずれかの製剤の有効性が他より高い(または低い)ことはあるのかという疑問にも答え ようと努め、さらに安全性に関する問題も取り上げたという点である。

Singhら2は、米国リウマチ学会による50%改善の基準(ACR50)を有効性の主な指標として、通常のACR20より厳格なエンドポイントを用いた。さらに、安全性に ついては、有害事象(AE)による中止という興味深い代用指標を用いた。これらに基づきSinghらは、検討したすべての生物学的製剤(anakinraを除く、アバタセプ ト、リツキシマブ、TNF阻害薬のアダリムマブ、エタネルセプト、インフリキシマブ)が、対照より優れた有効性を示すことを見いだした。(通常、メトトレキサートと 併用される)これらの製剤によるACR50反応達成のリスク比(RR)は、対照群と比較して2.16~3.05であった。AnakinraのRRは1.3であったが、この結果は統計学的 に有意ではなかった。さまざまな製剤を直接比較した試験は本質的に欠けているが、著者らは間接的な比較を行った。試験期間と対照群における反応率の相互作 用について補正したところ、RR 0.74~1.42が得られた。

全体としてSinghら2が伝えているのは、上記5つの生物学的製剤のいずれかを(メトトレキサートとの併用で)開始する患者1,000例のうち、200~333例が少なくともACR50を達成するということである。有効性に関するこの治療必要数(number-needed-to-treat:NNT)は、すべてではないが多くの症例で新たにメトトレキサートが用いられる対照の治療法と比較して、各製剤が追加される有効性を表している。

安全性については、アダリムマブ、anakinra、インフリキシマブを投与された患者において、対照群と比べて中止リスクが高かった(オッズ比[OR]1.5~2.2)。一方、 アバタセプト、エタネルセプト、リツキシマブを用いた治療による中止リスクは、対照群と差がなかった(OR 0.8~1.3)。AEによる中止については、有害作用の確認に 必要なNNT(NNT for harm)が、6つの生物学的製剤のいずれかによる治療を開始した患者1,000例当たり10~56例に達した。3つのTNF阻害薬の間接的な安全性 比較では、エタネルセプトが有利であったが、著者らは、データの解釈において試験対象集団の不均一性に注意を要する、と極めて適切に警告している。

「不均一性(heterogeneity)」という言葉はいかなる意味を伴うのだろうか。また、これはSinghら2の研究の解釈にどう関連するのであろうか。よく言われることで あるが、悪魔は細部に宿る。活動の開始時には目立たなかった小さなことが、のちの解釈の欠陥につながる可能性があるということである。主に状況に依存する、 脈絡的ないくつかの因子を、以下で明らかにする。

対照群の治療法は問題になるだろうか。それぞれの生物学的製剤は、試験において通常は総合して評価される。しかし、活動性疾患を有するにもかかわらずメトトレキサート療法を継続し、その後既投与のメトトレキサートに加えてプラセボを投与される患者が対照群に含まれている試験では、対照群で新たな実薬治療(すなわち、メトトレキサート未投与患者への新たなメトトレキサート投与)を採用する試験と比べて、対照群の反応率が図らずも低くなり、したがってACR50などの厳格な反応に関するRRが高くなる。前者の試験では通常、長期罹患RAまたは晩期RAの患者が対象となる一方、後者の試験では、早期RAの患者が対象となるのが一般的である。実際に、この交絡作用が、Singhらの論文におけるサブ解析の一つに表れている。このサブ解析では、すべての製剤の絶対反応率が治療歴の増加とともに低下することが示されているにもかかわらず、早期RAに対 する生物学的製剤+メトトレキサートの有効性を、対照群(ほとんどが新たなメトトレキサート投与)と比較したRRは1.43であった(見かけ上統計学的に有意ではなかっ た)のに対し、長期罹患RAおよび晩期RAに対する有効性を対照群(ほとんどが、背景のメトトレキサートによる真のプラセボ)と比較したRRは、それぞれ2.50、2.96 であった。このような状況に依存した詳細を考慮せずに試験を比較すれば、不正確なメッセージが伝えられる可能性がある。この暗示的意味は、Swefot試験4の結果によって裏づけられている。同試験では、メトトレキサート療法にもかかわらず活動性RAを有する患者に、追加的に生物学的製剤または合成DMARDを投与した結果、生物学的製剤群と対照の合成DMARD群の差が、メトトレキサートによる効果が不十分で、新たな実薬治療ではなくプラセボを投与される患者集団を対照群とした場合に通常認められる差と比べて、小さくなった。

試験が実施された時期は問題になるであろうか。臨床試験における除外基準は時代とともに変化する。特定の併存疾患リスクは先行する試験によって知られるようになり、以後の試験で調整されることから(うっ血性心不全、結核感染など)、特にAEリスクに関しては変化が大きく、リスクは経時的に低下する。同様に、以前の生物学的製剤が無効で、新たな試験に登録された患者は、さまざまな治療を忍容できることがすでにわかっており、生物学的製剤がまだ認可されていなかった時代に試験に参加した患者と容易に比較することはできない。加えて、過去10年間では早期の紹介、早期の治療、集中的治療が一般的な方法となっており、RAの重症度と、それに伴って試験に参加する患者集団の特性が 変化しつつある。

試験が実施される地域は影響を及ぼすであろうか。特定の併存疾患は、ある地域で他地域より罹患率が高い。したがって、ある製剤の試験が主に米国と西欧で実施され、別の製剤の試験がそれ以外の国で実施される場合、AEの比較には注意を要する。

今後の解析で取り上げるべきその他の側面は、Cochraneレビューに含まれる無作為化対照試験における最小患者数(ある試験では患者が20例しかいなかった、など)、投薬(インフリキシマブは表示に従って柔軟に投与可能であるが、最低承認用量で評価されている)、エンドポイント(一次評価は各試験の主要エンドポイントではなくACR50であった)、試験について有効性を評価し安全性は評価しない例、またはその逆の例があったことに関連していると考えられる。

これらの項目によって、Singhらが印象深い分析的方法で行った研究の価値が低下することはない。そうではなく上記の項目は、今後のレビューにおいて、すべての 潜在的交絡因子をどのようにすれば説明できるのか、また、試験の不均一性の何らかの原因を取り除くことができるのかという問題に対処するためのものである。その ような検討によって、方法論的戦略が前進し、もっとも確実な「医療介入の効果に関する最善のエビデンス」に到達できる可能性がある。有効性比較研究が臨床および アウトカム研究イニシアチブの脚光を浴びているが、適切な直接比較が依然待望される(あるいは、十分に完全な形で行われることはないであろう)時代の中で、わ れわれの知見を磨く方法を考えなければならない。

Singhらの研究を補完するものとして、合成および生物学的DMARDを用いたRAの管理に関する最近の欧州リウマチ学会(EULAR)推奨の情報を記したSLRを参照 することも、価値があると考えられる。これらのSLRでは、解析がサブセットに分けられていたが、生物学的製剤の相対的有効性について同様の結論が得られた。 たとえば、合成DMARDに関するSLRでは、DMARDと、グルココルチコイド療法を追加するおよび追加しないDMARD併用の有効性が検討され、そのような解析 では無視されることの多い、グルココルチコイドが及ぼす作用の可能性が考慮された。生物学的製剤に関するSLRでは、対照群と治療歴に基づいて試験が分類され た。このような異なるシナリオによって、導き出される結論の範囲が広がり、試験対象集団の詳細がさらによく理解され、その結果として、更に臨床に応用されるよ うになる可能性がある。

リウマチ専門医は、疾患のさまざまな段階にある個々の患者に直面する。医師とその患者のどちらにも、個々の状況への対応を助ける情報が必要である。そのため に、Singhらが行った「レビューのレビュー」は、文献への重要な追加情報である。EULARのSLRとともに、この研究は、RAの個別化された管理に最適な選択肢に関 する情報を、医師と患者にもたらすと考えられる。

doi:10.1038/nrrheum.2010.58

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