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パーキンソン病:パーキンソン病の分子バイオマーカーの開発に向けての進歩

Nature Reviews Neurology

2010年7月1日

Edges, nodes and networks

神経変性疾患に関連した蛋白質は、バイオマーカーとして潜在的に利用できる可能性がある。今回、ある研究によって、パーキンソン病患者では健康人コントロールまたはアルツハイマー病患者に比べて、年齢や血液コンタミネーションなどの交絡変数を調整した後の脳脊髄液中のα-シヌクレインおよびDJ1 のレベルが顕著に減少していることが明らかにされた。

パーキンソン病(PD)は病理学的に、黒質からのドパミンニューロンの選択的消失、ならびに生存細胞におけるLewy 小体の存在および脳実質におけるLewy ニューライトによって特徴づけられる(図 1)。Lewy 小体およびLewy ニューライトの主な蛋白構成成分がα-シヌクレインであり、リン酸化型および凝集型の形で蓄積する1。家族性PD という稀な症例は、α-シヌクレインをエンコードするSNCA 遺伝 子のミスセンス変異によって引き起こされる。さらに、この遺伝子の二重複および三重複はそれぞれ、家族性PD の後期発症および早期発症を引き起こし、このことはα-シヌクレインの発現レベルが疾患の発症 や重症度の重要な決定要因である可能性を示唆している。現在、エビデンスからは、α-シヌクレインは細胞から分泌され、脳脊髄液(CSF)中および血漿中に存在することが示されている。これらの知見によっ て、PD およびその関連疾患の診断および/ または進展の潜在的バイオマーカーとして、PD の病因にメカニズム的に関連しているこの蛋白やその他の分子に対する関心が高まってきた。また、そのような分子の一つがDJ1 であり、PD の早期発症はDJ1 をエンコードするPARK7 の機能喪失変異によって引き起こされる。Hong らは今回、α-シヌクレインおよびDJ1 の両方に関して、PD の潜在的なCSF バイオマーカー としての有用性を検討する広範囲な研究を行った。

本研究ではこれら2 つのバイオマーカーを検討することに加えて、CSF の血液コンタミネーションの程度(ヘモグロビン濃度を測定することによって判定した)を含む可能性のある交絡因子を調整することに よって、過去に実施された研究よりもさらに優れた結果を生み出した。α-シヌクレインおよびDJ1 はいずれも血液細胞中に高濃度にみられることから、血液コンタミネーションの程度が少しであっても、研究結果に重大な影響を及ぼす可能性があった。

研究者らは高感度定量Luminex ビーズ法を用いて、PD 患者117 例、健康人被験者132 例およびアルツハイマー病(AD)患者50 例のα-シヌクレインおよびDJ1 のレベルを測定した。これら両方の蛋白レベ ルは、血液によってコンタミした(ヘモグロビン>200 ng/mL)すべてのCSF サンプル中で著明に増加することが示された。検討した潜在的な交絡変数(最大2 回の冷凍- 解凍作業、最大3 ヵ月間の-80 度で のCSF の保存、rostro-caudal 勾配、性別および年齢)のうち、年齢のみが顕著な作用を示し、いずれの蛋白レベルも年齢の機能に比例して増加した。年齢が<50 歳の患者を除いた場合、DJ1 のCSF レベルはPD群の方が健康人対照群よりも大幅に低いことが示されたが、α-シヌクレインのCSF レベルに関してはこれら2 群間に顕著な差異は認められなかった。ヘモグロビン高値の症例も除いた場合、PD 群では健康人対照群に比べて、α-シヌクレインのレベルが大幅に減少することが示された。また、血液コンタミネーションの程度にかかわらず、AD 群とPD 群との間にはα-シヌクレインおよびDJ1 のCSF レベルに顕著な差異が認められた。Hoehn and Yahr scale(PD 症例の臨床的重症度を評価する尺度)のスコアとCSF 中のいずれの蛋白レベルとの間にも、相関性は認められなかった。選んだカットオフ値で受信者動作特性(ROC)曲線解析(年齢< 50 歳および/ またはCSF 中のヘモグロビン濃度が高い被験者は除外)を行った結果、PD 患者を対照患者と鑑別する感度および特異性は、α-シヌクレインはそれぞれ93%および39%であり、DJ1 は94%および50%であった。年齢≧ 65 歳の患者のみを含めた場合、これらの結果はそれぞれ92%および58%、90%および70%と大幅に改善した。すべての被験者において、これら2 つの蛋白レベルの間には強い正の相関性が認められたが、これら2 つのマーカーを組み合わせた場合、それぞれのマーカー単独での感度および特異性を上回るような改善は認められなかった。

Hong らの研究は、α-シヌクレインおよびDJ1 のいずれもがPD のCSF 分子診断マーカーとして期待されることを示しており、またこれらの蛋白レベルを分析する際には、年齢および血液コンタミネーション という交絡変数を計算に入れることが重要であることを強調している。過去の報告5-7 におけるいくつかの矛盾する結果は、これらの変数によって説明できると思われる。今回の新たなデータは、疾患の早期段階 を発見することまたは疾患の進行をたどることにα-シヌクレインやDJ1 を用いることができるという点に関しては、何の示唆もしていない。疾患の進行をたどるためのマーカーとしては、特に、現状では臨床評 価スケールに強く依存しているような薬剤の試験において有用であると思われる。PD およびそれに関連した「シヌクレオパチー(Lewy 小体および多系統萎縮[MSA]を伴う認知症)」を他の運動性疾患や認知症と鑑別するため、またはMSA をPD と鑑別するためにα-シヌクレインおよびDJ1 を用いることができるかどうかを決定するためには、さらなる研究が必要であろう。

Hong らによって発見されたα-シヌクレインアッセイの有用性に関しては、この蛋白の正常型と異常型(リン酸化型および/ または凝集型)を区別する試みがなされていなかったことから、限界があると思われる。概念的に、疾患特異的な分子マーカーは基本的な神経病理を反映すべきであることから、生体液中のα-シヌクレインや他の関連蛋白の異なる型をモニターするためのさらなる試みを実施すべきである。おそらくここでは、AD のバイオマーカー研究から教訓を学ぶことができる。AD 患者のCSF サンプル中では健康人コントロールのCSF サンプル中に比して、老人斑(アミロイドβ[Aβ]42)にみられるAβ ペプチドの大半のアミロイド産生型のレベルが減少しているが、この減少は患者のMini Mental State Examination(MMSE)スコアとは相関しない。しかしながら、ある研究か らは、オリゴマーAβ42 に特異的なアッセイは「総Aβ42」レベルを測定するよりもCSF 診断検査として優れていることが明らかにされている。この研究では、オリゴマーAβ42 のレベルだけがMMSE スコア と相関することが示されたことから、これを疾患進行のモニターに使用することができる可能性がある。AD においては、脳の皮質から大脳血管系までのAβ凝集、さらには末梢循環血までのAβ 凝集を取り除く ことを意味する浄化メカニズムに関してのエビデンスがますます増えてきている。この点から、血漿または血清サンプル中に、脳由来のAβ のオリゴマー型および類推によってα-シヌクレインを見つけ出すこと は可能だと思われる。実際にα-シヌクレインの場合、このアプローチが潜在的に実行可能な方法であることを示したエビデンスはすでに存在している。血漿または血清サンプル中の蛋白レベルの測定は、CSF サンプルを採取するよりも侵襲が少なく、この方法を用いれば縦断的研究がより実施しやすくなるが、血液細胞中にある高レベルのα-シヌクレイン(おそらく主に非オリゴマー型および非リン酸化型)による干渉 という問題を最初に克服する必要があると思われる。α-シヌクレインと同様に、DJ1 もダイマーやオリゴマーとして存在している。たとえDJ1 がLewy 小体の必須構成成分でないとしても、これらの型を測定することは非常に有益であると思われる。

現在、疾患に関連した蛋白バイオマーカーに関するあらゆる分野に勢いがあり、今後2 ~ 3 年にはさらに重要な進歩が得られることは間違いないであろう。究極のゴールは、臨床症状が発現する前に脳の病理学 的変化の発現を上手く見つけ出し、それによって可能な限り早期に神経保護的または神経回復的な治療法を世に送り出すことにある。

doi:10.1038/nrneurol.2010.78

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