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片頭痛:前兆を伴う片頭痛は脳卒中リスクを高める

Nature Reviews Neurology

2010年3月1日

MIGRAINE Migraine with aura increases the risk of stroke

片頭痛、特に前兆を伴う片頭痛は虚血性脳卒中のリスクを高めると考えられており、その他の心血管イ ベントとも関連する可能性がある。新しいメタアナリシスの結果もこの関連を支持している。しかし、 前兆を伴う頭痛が脳卒中以外の心血管疾患のリスクを高めるのかどうか、結論を出すにはまだデータが 不十分である。

片頭痛を有する人の中には一過性の局所的な神経症状を経験する人がいる。実際には視覚的な症状であることが多く、頭痛発作の直前かその最中に生じる。このような症状は総じて前兆として知られており、感覚 障害、失語、運動障害などがみられることもある。片頭痛、特に前兆を伴う片頭痛が虚血性脳卒中リスクの上昇に関連するという注目すべき試験結果も発表されている。その後、次の段階の試験がいくつも実施され、片頭痛と心血管疾患(CVD)の多岐にわたる関係性が示唆されている。どの片頭痛がCVD のマーカーあるいはリスク因子であるかをどの程度明らかにするのかは、公衆衛生の点からみて重要な問題である。女性の約18%、男性の6 ~ 7%が片頭痛を有しており、その約3分の1 の人が前兆を伴う片頭痛を経験しているからである。さらに、片頭痛とCVD の関連は、臨床現場に直接関わってくる。片頭痛のある患者に心血管イベントリスクについてカウンセリングするべきかどうか、医師は知っておいて悪くない。さらにこのリスクの程度によっては、CVD 患者には禁忌であるトリプタンを処方するかどうかの決定に影響を与えるかもしれない。現在、片頭痛とCVD の関連についての評価を研究者らが試みており、この相関の可能性をめぐって公共医療や臨床的な配慮が提起されている。

Schürks らは、片頭痛とCVD の関連についての研究の系統的レビューとメタアナリシスを行った。著者らの組み入れ基準に適合した25 件の試験のうち13件は、最新のメタアナリシス後に発表された試験であ った。Schürks らのメタアナリシスには、小規模な病院ベースの症例対照研究、診断コードまたは片頭痛特異的な薬剤の使用により患者を同定した大規模な医療データベース、大規模な縦断的あるいは横断的な住民ベースの試験など、包括的で多様なソースからの症例が含まれた。

Schürks らが設定したCVD のアウトカムは、脳卒中、心筋梗塞、狭心症、CVD による死亡などであった。可能な場合には、CVD 転帰は前兆の有無で分けて評価した。またいくつかの試験で、片頭痛を有する人の脳卒中リスクは、男性よりも女性のほうが高いことが示唆されていたため、片頭痛とCVD の関連は性別ごとに評価した。二次解析として、年齢、経口避妊薬の使用、喫煙状況によるメタ回帰分析も行われた。

先行の研究結果と矛盾することなく、Schürks らは、虚血性脳卒中のリスクが片頭痛を有する人では片頭痛のない人に比べて2 倍近く高い(統合相対リスク[RR]1.73)ことを示した。このリスクは片頭痛を有する女性(統合RR = 2.08)の方が男性(統合RR = 1.37)よりも高かったが、リスク値の差は有意ではなかった。メタアナリシスでは、片頭痛を有する人の虚血性脳卒中リスクは45 歳未満で顕著に高く(統合RR =2.6)、45 歳未満の女性では特に高かった(統合RR= 3.7)。患者を前兆の有無により層別化したところ、片頭痛による虚血性脳卒中のリスクは、主に前兆を伴う片頭痛に起因すると考えられた。前兆が伴う場合、虚血性脳卒中のリスクは倍増した(統合RR = 2.2)が、前兆を伴わない片頭痛ではベースラインのリスクを上回らなかった(統合RR = 1.2)。

脳卒中に対する影響とは対照的に、片頭痛による心筋梗塞のリスクやCVD による死亡のリスクは増加しなかった。メタアナリシスに含まれた試験のうち1件だけが、これらの転帰のリスクに対する前兆の影響 を調べていた。女性のみが対象のこの試験において、前兆を伴う片頭痛を経験した人(前兆がなかった人以外)では、頭痛のない人にくらべて心筋梗塞、狭心症、CVD による死亡のリスクが約2 倍高かった4。このように、前兆を伴う片頭痛と脳卒中以外のCVD リスクの増加または心血管死亡率の上昇との関連は、依然もっともらしく思われるが、前兆の有無で転帰を評価する住民ベースの試験によってさらにエビデンスが得られないかぎりは、立証されないままであろう。

片頭痛と虚血性脳卒中の関連は確実であるように考えられるが、この関連の臨床的な意味についてはまだ不明である。片頭痛を有する患者に対するリスク低減のためのカウンセリングは、従来の脳卒中のリスク因 子に基づいて行うのが安全であろう。実際、Loder はこのメタアナリシスのeditorial において、こうした患者では、調節可能なCVD の危険因子に対しての治療を積極的に行うべきだと述べている1。しかしわれわれの知る限り、片頭痛保持者が対象の脳卒中の試験で、ベースラインのCVD 危険因子で補正したどの試験においても、片頭痛と脳卒中の関連に明確に影響を及ぼすCVD 危険因子は認められなかった。これは片頭痛と虚血性脳卒中を関連させるメカニズムが、従来のCVD 危険因子とは独立していることを示している。1 件の試験では、前兆を経験したことのある片頭痛を有する女性のうち、心血管イベントの危険因子プロファイルでは最もリスクの低い女性が、最も明確な脳卒中リスクを有しているような所見さえみられた。しかし前兆を伴う片頭痛を有する患者において、従来のCVD 危険因子の果たす役割を無視することは できないだろう。それにこれまでに試験で使用された危険因子の測定方法は、CVD と片頭痛の関連に影響するほどの十分な感度がなかったのかもしれない。

Schürks らのメタアナリシスでは、片頭痛を有する人の虚血性脳卒中リスクは女性の方が男性よりも高く、特に若い女性で高いことが示されている。しかしこの所見は初期の小規模な病院ベースの症例対照研究 によるところが大きく、縦断的な住民ベースの試験に比べて選択バイアスがかかる傾向が強い。したがって少なくとも当分の間、医師は片頭痛を有する若い女性だけにカウンセリングをするメリットがあるとは考えてはならない。

片頭痛と虚血性脳卒中の関連を示すエビデンスでは、いくつか臨床的に重要な疑問が生じる。第一に、片頭痛歴は脳卒中リスク評価のアルゴリズム6 に含めるべきだろうか。この問いに答えるには、片頭痛によ ってこのアルゴリズムによるリスクスコアがどれだけ上昇するのか、正確に測定する研究が必要だと考えられる。第二に、他の脳卒中危険因子が見られなくても、前兆を伴う片頭痛を有する患者のすべて、あるいは一部に、抗血栓薬の使用を検討するべきか。われわれは、この問いに対する答えは、片頭痛を有する人を対象に、しっかりと設計した抗血栓薬の臨床試験を実施しなければ得られないと考えている。

前述したように、前兆を伴う片頭痛と脳卒中以外のCVD または心血管死亡率との関連を採用するかしないかを決めるためのデータは不十分である。この関連が存在するのかどうかはっきりさせるためには、片 頭痛を有する人を対象にCVD 転帰を前兆の有無により評価する、よく設計された試験を実施する必要がある。こうした試験では、これまでに実施された試験よりもさらに詳細に片頭痛の前兆の評価を行うことが理 想的である。前兆を伴う片頭痛の標準化された診断基準であるInternational Classification of Headache Disorders では、このような頭痛の発作が人生で2 回認められれば診断を下すことができる7。しかし前兆の頻度は脳卒中やCVD のリスクと関連する可能性がある。ほとんどの試験では前兆の頻度に関する情報を適切に収集してこなかったため、片頭痛を有する人の真の脳卒中リスクはこれまでに報告されているよりも高い可能性があるが、これも今後証明されるべき点であろう。

doi:10.1038/nrneurol.2010.14

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