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シナカルセト―高カルシウム血症をコントロールできるか

Nature Reviews Endocrinology

2010年1月1日

Parathyroid gland Cinacalcet—can it control hypercalcemia?

血清カルシウム値が3.1 mmol/L を超える難治性原発性副甲状腺機能亢進症患者において、カルシウム模倣薬シナカルセトが同カルシウム値の低下に及ぼす効果が検討された。医師はこれらの患者の高カルシウム血症をようやくコントロールできるようになるのか。

原発性副甲状腺機能亢進症は一般的な内分泌疾患の1つであり、血清副甲状腺ホルモン値およびカルシウム値の不適切な上昇を特徴とする。副甲状腺摘除術後の原発性副甲状腺機能亢進症患者や手術が禁忌の患者のおよそ5 ~ 12% で、副甲状腺機能亢進症が持続もしくは再発する可能性がある1,2。こうした患者では中等度もしくは重度の高カルシウム血症に対する長期治療が要されることが多く、実施可能な治療選択肢がほとんどない難治性原発性副甲状腺機能亢進症が生じていると捉えられる。カルシウム模倣薬であるシナカルセトは、副甲状腺細胞上のカルシウム感知受容体(CASR)を活性化して同受容体のカルシウム感受性 を増強し、血漿インタクト副甲状腺ホルモン値と血清カルシウム値を低下させる。そこでMarcocci ら3 は単独群によるオープンラベル用量漸増試験を実施し、難治性原発性副甲状腺機能亢進症患者におけるシナカルセトの血清カルシウム値低下効果について検討した。

本研究は、血清カルシウム値> 3.1 mmol/L の難治性原発性副甲状腺機能亢進症患者17 例を対象に、欧州、米国、カナダの23 施設で行われた。用量漸増期間は最長16週間とし、血清カルシウム値<2.5mmol/L、または最大用量に達するまで、もしくは有害事象のために増量できなくなるまでシナカルセトを漸増投与した。その後、維持期間を最長136 週間設けた。ベース ラインの平均血清カルシウム値は3.2 ± 0.2 mmol/Lであった。用量漸増期間終了時には、15 例(88%)の患者で血清カルシウム値が0.25 mmol/L 以上低下し、うち9例(53%)で正常カルシウム値(≦2.6 mmol/L)が達成された。血漿インタクト副甲状腺ホルモン値の変化は統計学的に有意ではなかった。重篤ではないものの、治療関連有害事象が15 例(88%)で報告された。 最も高頻度に認められた有害事象は悪心、嘔吐および錯感覚(皮膚のピリピリ感もしくはしびれ感)であった。

原発性副甲状腺機能亢進患者のおよそ80 ~ 85%が良性の副甲状腺腫を有するが、副甲状腺過形成から同疾患に進展するのは15 ~ 20% である。副甲状腺癌はまれであり、発症率は約1% とされている。原発 性副甲状腺機能亢進症の75 ~ 80% は無症候性であり、通常、血清カルシウム値が正常範囲の2.2 ~2.6 mmol/L より0.25 mmol/L 程度わずかに上昇する。しかし、若年の他に大きな問題のない患者では 3.0 mmol/L くらいにまで上昇することがある。症候性の原発性副甲状腺機能亢進症に特異的な臨床症状はないが、綿密な病歴の聴取により非特異的な症状がいくつか検出できる可能性がある。こういった患者では脱力感や軽度のうつ、疲労感、食欲不振、欠勤の増加などを訴えることがしばしばある。また、血清カルシウム値> 3 mmol/L を示している可能性がある。血清カルシウム値> 3.5 mmol/L の患者のほとんどは症候性である。

二次性副甲状腺機能亢進症は、慢性腎臓病患者における腎機能悪化の適応反応として生じる。様々な要因が組み合わさることで副甲状腺ホルモン値の上昇が起こり、疾患の進行に伴って糸球体濾過量が低下する。 二次性副甲状腺機能亢進症患者では、標的臓器において副甲状腺ホルモンに対する耐性が生じるが、慢性的なホルモン値の上昇は骨量低下(特に皮質骨)、骨折、心血管疾患、死亡率の上昇を招く。

原発性副甲状腺機能亢進症治療においては薬物療法が承認されておらず、根治的治療法は副甲状腺摘除術に限られている。症候性の原発性副甲状腺機能亢進症の管理に関するガイドライン4 では、手術に代わるア プローチ法として有望な4 つのクラスの薬物療法(ビスフォスフォネート、エストロゲン、選択的エストロゲン受容体調節薬、カルシウム模倣薬)はいずれも、十分な長期データがないことから推奨できないと結論づけている。しかし欧州では、米国と異なり、原発性副甲状腺機能亢進症に対する薬物療法としてシナカルセトが推奨されている。また、二次性副甲状腺機能亢進症患者の副甲状腺ホルモン値を下げるための薬物療法としては、カルシウム模倣薬、カルシトリオール、ビタミンD アナログ、あるいはカルシウム模倣薬とカルシトリオールもしくはビタミンD アナログとの併用が推奨されている。

細胞膜CASR に対する相補DNA が特定されるとすぐに、同受容体をターゲットとする分子の開発が開始された。このような分子は、腎不全などの二次性副甲状腺機能亢進状態や原発性副甲状腺機能亢進症の治 療に有用と考えられる。副甲状腺ホルモン分泌をコントロールするのに重要なのが、細胞外カルシウムイオン濃度の変化による生理的刺激である。CASR が活性化されると、副甲状腺ホルモン遺伝子転写や蛋白分 泌、および副甲状腺細胞増殖が阻害される。カルシウム模倣薬はCASR に対する細胞外カルシウムの作用を刺激し、尿毒性の二次性副甲状腺機能亢進症の場合は細胞増殖と副甲状腺過形成を抑制する。 シナカルセトは原発性副甲状腺機能亢進症患者のうち、軽度~中等度の疾患患者や難治性疾患患者、および副甲状腺癌患者を含む一部の患者群において血清カルシウム値を低下させることが示されている。軽度~ 中等度の原発性副甲状腺機能亢進症患者78 例を対象とした多施設共同無作為化二重盲検比較試験では、カルシウム値がベースラインから0.12 mmol/L 以上低下して正常値に達した患者がプラセボ群では5% のみであったが、シナカルセト群では73% であった。さらに非盲検による4.5 年間の延長試験では、シナカルセトの忍容性が良好であること、本剤により血清カルシウム値の長期コントロールが可能であることが示唆された。本試験終了時には、80% の患者で血清カルシウム値が正常範囲内となり、血清副甲状腺ホルモン値もわずかに低下した。

慢性腎臓病に伴う二次性副甲状腺機能亢進症患者では、シナカルセトにより副甲状腺ホルモン値の大幅な低下が持続的に達成されるだけでなく、血清中のカルシウム値、リン値、カルシウム・リン積も同時に低下 することが示されている。この副甲状腺ホルモン値の低下は疾患の重症度にかかわらず認められ、また、長期試験のデータから、シナカルセトによる副甲状腺ホルモン値およびカルシウム・リン積のコントロール は投与後も維持されることが確認されている。

Marcocci らの知見で重要な点は、副甲状腺手術後の原発性副甲状腺機能亢進症患者と同等の健康関連QOL の改善がみられたことである。ただし、本試験では対照群が設定されておらず、患者の治療に対する 意識を考えると、このQOL 改善の解釈にあたっては議論の余地があろう。また、米国で原発性副甲状腺機能亢進症の治療にシナカルセトが推奨されていない主な理由は、BMD が改善しない点にある。Marcocci らはBMD について提示してないが、骨代謝マーカーに変化が認められなかったことから、本試験でもBMD は改善しなかったと推測される。

重要なのは、原発性副甲状腺機能亢進症の根治的治療法が副甲状腺手術に限られていることである。Marcocci らの試験は、単独群試験という限界はあるものの、原発性副甲状腺機能亢進症で副甲状腺摘出術 禁忌の高カルシウム血症患者におけるカルシウム模倣薬使用の有望性を示すものである。ただし、シナカルセト療法が手術に代わる有効な治療法として推奨されるためには、さらなる研究により原発性副甲状腺機能亢進症治療における本剤の長期臨床効果を確立する必要があろう。

doi:10.1038/nrendo.2009.245

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