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米国の勧告ではビタミンD欠乏は解消されない

Nature Reviews Endocrinology

2009年10月1日

Nutrition US recommendations fail to correct vitamin D deficiency

ビタミンD 欠乏は女性乳癌患者で多くみられる。現行のガイドラインでは、連日400 IU のビタミンD3補充が推奨されている。ところが、Journal of Clinical Oncology 誌に発表されたデータによると、この推奨量では十分な血中25- ヒドロキシビタミンD 値(≧ 75 nmol/L)を達成できない可能性がある。

誰しも、米国Institute of Medicine(IOM)の食事勧告に正確に従えば、摂取栄養素の血中レベルは十分に保持できると、当然ながら考えていることだろう1。 ところが、ビタミンD 摂取に関する現行のIOM 勧告はまったく不適切であるという新しいエビデンスが、Crew ら2 によって示された。Crew らは、早期乳癌に対して化学療法を施行中、連日400 IU のビタ ミンD3 補充を1 年間受けていた閉経前女性のビタミンD 欠乏率が高いことを明らかにした。衝撃的な事実だが、過去数十年の間に得られたデータを考えれば、この結果は十分に予測可能であった。にもかかわらずこの問題は、医学界において完全には容認されていない。

Crew らは、ゾレドロン酸に関する無作為化プラセボ対照比較試験の登録患者で、I ~ III 期の乳癌の診断を受けた閉経前女性103 例を対象に検討を行った。試験期間中、各患者において4 ~ 8 コースの化学療法が実施され、さらに67 例ではタモキシフェン等による補助内分泌療法が施行された。化学療法レジメンの種類にかかわらず、全例においてビタミンD3(400 IU/ 日)および炭酸カルシウム(1 g/ 日)補充が実施された。主要評価項目は血清25- ヒドロキシビタミンD 値とし、ベースライン時、ビタミンD3 補法開始6 ヵ月後、および12 ヵ月後に測定した。対象患者の年齢中央値は43 歳、51%が非ヒスパニッ ク系の白人であった。6 ヵ月後および12 ヵ月後の追跡調査を完遂したのは、それぞれ96 例および85 例であった。ビタミンD3 補充のコンプライアンス、食事によるビタミンD 摂取、太陽光への曝露状況は不 明であったが、34 例ではビタミンD3 サプリメントの使用歴が報告された。ベースライン時の血中25- ヒドロキシビタミンD 値(中央値)は42 nmol/L で、74% がビタミンD 欠乏(血中25- ヒドロキシビタミンD 値< 50 nmol/L)を呈していた。ビタミンD3補充開始12 ヵ月後の25- ヒドロキシビタミンD 値も依然として低いままであったが(中央値47 nmol/L)、この時点でビタミンD 欠乏と分類された患者は60%に低下した。ビタミンD 欠乏は非ヒスパニック系白人よりも、黒人およびヒスパニック系患者でより多く認められた。さらに、本試験に登録の黒人患者では、ビタミンD3 補充に反応して十分なビタミンD 値(血中25- ヒドロキシビタミンD 値≧ 75 nmol/L)を達成した患者はいなかった 。

Crew らが示した結果は確かに憂慮すべきものであるが、これまでに発表されたデータからまったく予測できないものではなかった。実際、Crew らは標準用量のビタミンD3 では、血清25- ヒドロキシビタミン D 値が「十分」とみなされる値にまで上昇しないと仮定していた。2000 年にVieth ら3 は、現在IOMが有害作用の観察される最も低い用量として勧告している2,000 IU/ 日1 の最大2 倍の用量でビタミンD3 を投与した場合の効果について発表している。Viethらは、ビタミンD3 を数ヵ月にわたり連日4,000 IU摂取しても、血中25- ヒドロキシビタミンD 値は95 nmol/L までしか増加しないことを見出した3。こ の値は、現在の基準で十分とみなされる値をわずかに上回る値である4。実際、閉経後のアフリカ系米国人女性を対象とした研究では、連日2,000 IU のビタミンD3 を1 年間補充しても、半数以上の女性は血中 25- ヒドロキシビタミンD 値が80 nmol/L の最低レベル(同研究らにより定義)を下回ったままであることが示されている。

2003 年にHeaney ら が発表した画期的な用量反応試験では、成人男性を対象に最大10,000 IU/ 日のビタミンD3 補充を行った場合の血中25- ヒドロキシビタミンD 値に対する効果が検討された(図1)。こ のデータからHeaney らは、ビタミンD3 摂取量が10μg(400 IU)増加するごとに、血中25- ヒドロキシビタミンD値が約7 nmol/L 増加すると推定した6。したがってこの仮定を考慮すれば、1 年間の試験期間中に平均5 nmol/L の血清25- ヒドロキシビタミンDの上昇がみられたというCrew らの結果は、十分に予測可能であったといえる。

私は、癌などのさまざまな病態とビタミンD 欠乏を関連づけた科学的研究が発表されると、しばしばメディアのインタビューに応じるよう求められる。このような知見では常にビタミンD 欠乏と疾患の病態が 関連づけられており、インタビューの終わりには大概、適切な血中25- ヒドロキシビタミンD 値を達成するためにはどのくらいのビタミンD3 が必要かを尋ねられる。その質問にはいつも2,000 ~ 6,000 IU/ 日と答えている。この値は私が自身の研究で得たもので、本稿でもすでに参照している。ところが、インタビューが出版もしくは放映されると、私の推奨した値がIOM推奨の200 ~ 400 IU/ 日に置き換わっていることがよくある。この値ではいかなる既存のビタミンD 欠乏に対しても効果を示さないため、こういった状況はきわめて遺憾である。成人の食事にビタミンD が必要であることは50 年も前から確認されていたこと、1997 年に初めてIOM勧告が発表されて以来、ビタミンD3 摂取量としての200 ~ 400 IU/ 日(同じく、有害作用の観察される最も低い用量としての2,000 IU/ 日)という値に進展がみられないことを、臨床医はもっと認識すべきである4。患者が最適な健康状態を維持するのに十分量のビタミンD3 を確実に提供できるよう、医療従事者は最新の文献情報に精通しておく必要がある。

最後に、2006 年にNew England Journal of Medicine誌に発表された、ビタミンD 補充と結腸直腸癌リスクに関するWomen’ s Health Initiative(WHI)の研究結果7 の重要な箇所について触れたい。本研究では、数千人の女性を対象に、プラセボまたはビタミンD3(400I U/ 日)を数年にわたり連日摂取させた。最終的に、おそらくほとんどの女性にビタミンD 欠乏が残ったと推測されたが、試験終了後の血液試料を用いた25- ヒドロキシビタミンD 含量の分析が行われなかったため、確かなところはわからない。にもかかわらず、WHI の研究者らは、ビタミンD3 補充は結腸直腸癌発症に対して保護作用を示さなかったと結論づけた。しかし実際は、血中もしくは全身性25- ヒドロキシビタミンD 値に何の影響も及ぼさない用量のビタミンD3 が投与されていたため保護作用が観察されなかった、というのが妥当な結論ではないだろうか。Crew らの最新データは、400 IU/ 日のビタミンD3 補充が全身性25- ヒドロキシビタミンD 値の改善にはまったく無効であるという点において、WHI による結論が如何に間違っているかを明らかにするものである。

適切なビタミンD 状態がさまざまな癌に対して保護作用を示すというエビデンスは、数多く存在する(入手可能なデータのほとんどは疫学研究によるものではあるが)8,9。無作為化対照比較試験でも、1,100 IU/日のビタミンD3 補充により血中25- ヒドロキシビタミンD 値が上昇し、腫瘍の発現に対していくらか保護作用がみられたことが確認されている10。ビタミンDが本当に癌に対して保護作用を示すかどうかは、今後、大規模な無作為化対照比較試験を実施して明らかにすべきである。それまでは、有効性の検証に値しないビタミンD3 の用量に関してはCrew らの研究が一つの指針となるであろう

doi:10.1038/nrendo.2009.178

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