Research Highlights

立場逆転

Nature Reviews Cancer

2009年2月1日

Role reversal

ヒトの固形腫瘍における新規の転座を報告する論文が、最近、多数発表されており、これらの変異ががんを引き起こすことを示すために、マウスでの検討が不可欠になった。非小細胞肺癌(NSCLC)の患者においてEML4-ALK融合遺伝子を2007年に発見したことに引き続いて、今回、曽田学らは、この変異がマウスにおいてもがん原性であることを示した。

EML4ALKの融合は、第2番染色体短碗において逆位が生じた結果、ALKの細胞内キナーゼドメインの上流にEML4のアミノ末端が配置されてできたものである。このキナーゼが構成的に活性化するのは、EML4-ALKがELK4のcoiled coil領域を介して二量体を形成するからである。曽田らは、II型肺胞上皮細胞に特異的に発現するサーファクタントタンパク質Cのプロモーター部分を用いて、マウスの肺にEML4-ALKを発現させた。7つの初代系列から2のトランスジェニックマウスの系列を確立し、すべてのトランスジェニックマウスが生後、数週間で多数の小型肺腺がんを発生することを見いだした。免疫組織化学やウエスタンブロッティング、さらには病理学的検査やCTスキャンを用いた画像解析の結果、EML4-ALKの発現がこれらのマウスにおけるNSCLCの発生を促進させている原因であることが示された。

これまで数種類のALK阻害剤が開発されてきたが、その中の1つで、ALKに対して高い特異性を示す2,4-ピリミジンダイアミン誘導体を投与したところ、2カ月間にわたってマウスにおける腫瘍形成を抑制した。ALKを標的とすることの有効性をさらに確認するため、曽田らはEML4-ALKを過剰発現しているマウス3T3細胞をヌードマウスに静注した。無治療の場合、これらの細胞が肺で増殖し、呼吸不全を来す結果、9割のマウスが静注後1カ月で死亡した。一方、ALK阻害剤で治療したマウスは全例、この1カ月の間は生存した。

したがって、ALKを標的とすることは、EML4-ALK陽性NSCLC患者の治療として期待できそうである。しかし、曽田らはディスカッションの中で「ALK阻害剤で治療したトランスジェニックマウスは、腺がんが退縮した後も少数のEML4-ALK陽性細胞が残存しており、治療中止後は再発を起こした」といっている。したがって、併用治療がEML4-ALK陽性NSCLCに対する最も有効な治療になるかもしれない。

doi:10.1038/nrc2585

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