Research Highlights

過ぎたるは及ばざるがごとし

Nature Reviews Cancer

2008年7月1日

Too much of a good thing

中心体増幅とその結果起こるゲノム不安定性は長らく、腫瘍形成と関連するとされてきた。しかし、Jordan Raffらの研究成果は、ハエの中心体を増幅させても総体的な分裂異常を引き起こさないが、腫瘍は形成されうることを示している。

中心体複製の開始はSAKタンパク質キナーゼに一部依存することから、彼らはこれを用いてDrosophila melanogasterの中心体を増幅させた。その結果、Sakが安定的に過剰発現している3齢幼虫の脳細胞および成虫原基細胞(以下、まとめてSAKOE 細胞とする)の約60%では、中心体が増幅した。また、発生には遅延がみられ、SAKOE 胚全体の半数以上は分裂異常の蓄積のために胚致死となった。しかし、成虫となったSAKOEハエは形態学的に正常で、生存能力も生殖能力もあり、強いて言えば遺伝的にやや不安定なくらいで、中心体が過剰でも発生および生存は可能であることがわかった。

これに対し、幼虫の神経芽細胞(通常は非対称分裂する細胞)では、明らかに異常がみられた。神経芽細胞の分裂中、通常なら中心体1個が支配的に機能しているが、中心体が過剰に存在すると、中心体の非対称性に混乱がみられ、支配的な中心体1個を特定することができなかった。しかし、このような異常があるにもかかわらず、分裂中期までにはほとんどの中心体が集合して優勢な極が2個形成され、大幅に遅延はみられたものの、細胞はそのまま両極へと分裂することができた。さらに、SAKOE 細胞の分裂指数は高く、紡錘体形成チェックポイント(SAC)の関与が示唆された。この仮説は、SAKOEというバックグラウンドでSACの必須成分MAD2の変異体を導入すると、多極紡錘体および異常紡錘体が増大し、その後の致死率も高かいことから裏付けられた。Raffらは、SACが両極の紡錘体が形成されるまでに細胞分裂の脱出を阻止することによって、多極紡錘体の形成およびその後の総体的な遺伝的不安定性を妨げるのではないかとしている。

中心体は分裂に不可欠ではないが、極性を示す表層の合図に応答して紡錘体の方向を決めるうえで特に重要と思われる。SAKOE神経芽細胞には上述のような異常が認められ、対称的な分裂、および神経芽細胞プールの異常増殖と拡大がともに起きた。

この異常は腫瘍形成に関与しているのだろうか。この問いに答えるべく、SAKOE幼虫の脳を野生型ハエの腹部に移植したところ、、組織は異常増殖し、転移性腫瘍が形成されて、移植を受けたハエは早期に死亡し、腫瘍形成における役割が確認された。

以上のデータから、D. melanogasterにおける中心体の過剰な存在により、猛威を振るうような遺伝的不安定性が引き起こされるわけではないが、腫瘍は形成されうることを示す。これが神経芽細胞プールの拡大によるものなのか、ハエで認められた遺伝的不安定性の比較的軽微な増大によるものなのかは、現時点ではわからない。しかし、中心体の異常増幅を伴う細胞が生き延びるためにSAC経路へ依存することには無理があり、この弱点を治療法開発に利用できるかもしれない。したがって、腫瘍のSAC経路の構成成分を阻害することが、将来的に有用な治療法となる可能性がある。

doi:10.1038/nrc2428

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