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Nature Reviews Cancer

2008年7月1日

Looking at the big picture

がんに関連する変異は枚挙にいとまがないが、それらの相互作用に関するデータはほとんどない。異なる遺伝子型バックグラウンドのマウスを用いた新しい大規模変異スクリーニングにより、がん遺伝子および腫瘍抑制因子の候補が特定され、それをつなぐネットワークが明らかにされている。

腫瘍抑制因子ARF(Cdkn2aがコードする)の主な機能はp53の活性化と考えられているが、さまざまな検証から、それ以外にも機能をもつと考えられる。そこで著者らは、ArfおよびTrp53を欠損したマウスのほか、野生型のマウスにもレトロウイルス挿入変異を用いて、上記腫瘍抑制因子の1つとは相互作用するものの、それ以外とは相互作用しない遺伝子を同定した。この戦略の鍵を握る要素は、各腫瘍にみられる変異の一部ではなく、大部分が確実に同定されることであった。

実験の結果、マウス455匹の腫瘍510個から独立の挿入が10,806カ所同定され、ゲノムの遺伝子座346個の変異は、偶然に期待される頻度を有意に上回っていた。この「共通挿入部位」には、Mycなどの既知のがん遺伝子が含まれていたが、Notch受容体のモジュレーターであるLunatic fringeのように、がんとの関係がまだわかっていない遺伝子もあった。特に興味深いのは、3つの遺伝子型のうち1つまたは2つにしか起こらなかった変異である。例えば、p53のシグナル伝達にかかわるいくつかの遺伝子は、Arf欠損および野生型というバックグラウンドでは変異し、Trp53欠損のバックグラウンドでは変異していなかったことからは、これらの遺伝子の変異が、遺伝子型のバックグラウンドによって選別されていることが示唆される。これは、こうした変異によってp53活性の抑制されているためや、p53欠損型のバックグラウンドでは必要でないp53依存性作用が無効化されているためと考えられる。

著者らは、変異の協同的および排他的な相互作用のネットワークを構築するため、考えられる限りの変異対を調べ、それらが同じ腫瘍に共に生じる頻度が偶然による期待値よりも多いか少ないかをみた。ここから得られたネットワークには、これまでの研究で関係ありとされていたものを裏付ける相互作用が一部含まれていたほか、関与するタンパク質の生化学的特性から説明がつく相互作用も数多く含まれていた。また、Notch1のような一部の遺伝子を個別的にさらに詳しく調べると、変異には数種類あり、そのひとつひとつがさまざまな形で遺伝子の機能に影響を及ぼし、ほかの遺伝子の別の一連の変異に関連することがわかった。

これらの結果は、研究者が自分の関心のある特定の遺伝子および相互作用を解析できるよう、ウェブ上(http://mutapedia.nki.nl)で公開されている。このようなリソースは今後増えることが期待されるが、改善すべき点は、著者らが用いたレトロウイルスの特性上、この試験では含めることが難しかった造血器腫瘍以外のがんのデータを含めることであろう。

doi:10.1038/nrc2422

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