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Nature Reviews Cancer

2008年6月1日

Reversed protection

放射線治療の有害な副作用は主に、造血系および/または消化管に起こる大規模なアポトーシスとして認められる。そのため、治療に当たっては照射線量が制限される。GudkovとFeinsteinらは、アポトーシスを抑えるために腫瘍細胞で変異したシグナル経路を応用し、放射線治療の線量の増量が可能な(ひいては治療の奏功率の上昇も期待される)放射線防護剤の探索を大きく前進させる研究成果を発表した。

転写因子NFκ【特殊文字カッパ】Bが活性化すると、腫瘍細胞のアポトーシスに対する感度が低下する。そこで、GudkovとFeinsteinらは、NFκ【特殊文字カッパ】Bの活性化により正常組織も放射線のダメージから保護されるかを検討した。NFκ【特殊文字カッパ】B活性化を引き起こすToll様受容体5(TLR5)作動因子のフラジェリンをマウスに注入し、その30分後に致死量の全身放射線照射(TBI)を行ったところ、生存率が有意に高まることがわかった。線量修飾係数(動物の50%が死亡する線量の放射線を照射したときの、薬剤未処理群に対し処理群の生存がどのように変化したかを示す値)は1.6で、現在、臨床使用されている放射線防護剤よりも高かった。GudkovとFeinsteinらはさらに、上記と同程度の活性および安定性をもつ免疫原性のあるフラジェリンの誘導体、CBLB502を作製してサルに投与し、致死量の放射線を照射しても生存率が高まることを示した。ただし、放射線治療では通常、分割照射を行なう。そこで、TLR5+腫瘍担持マウスに致死線量での分割TBIを実施したところ、CBLB502の前投与によって、放射線による死亡を完全に回避することができた。重要なことに、腫瘍は、NFκ【特殊文字カッパ】B、TLR5および/またはその下流経路が頻繁に脱制御を受けるためか、放射線によるダメージを避けられなかった。このことは、CBLB502が有望な放射線防護剤となりうる、強力な証拠である。

では、放射線防護作用はどのようにしてもたらされるのだろうか。CBLB502で処理して放射線照射したマウスの小腸粘膜固有層を調べたところ、アポトーシスを起こした細胞の割合は低く、小腸陰窩の幹細胞および造血幹細胞と前駆細胞はダメージから保護されていた。また、粘膜固有層では、スーパーオキシドジスムターゼ2のようなNFκ【特殊文字カッ】B標的遺伝子の発現レベルが、放射線防護作用が知られているサイトカイン(GCSF、IL6およびTNFα【特殊文字アルファ】など)の発現と同様に増加していることが明らかになった。このことから、CBLB502は、TLR5依存性NFκ【特殊文字カッパ】Bの活性化をはじめとする多くの機序を通じて放射線感受性組織の細胞充実性や形態を保ち、放射線によるダメージを防御していることがわかる。

次に問題となるのは、特に放射線治療によるDNA損傷の存在下で、薬理学的に模倣した抗アポトーシス経路に発がん性があるかということである。しかし、腫瘍が発生しやすいTrp53-/+マウスモデルをCBLB502で前処理し、致死量未満のTBIを実施しても、腫瘍の発生率および発生頻度が高くなることはなかった。また、CBLB502を投与され、致死量のTBI実施後の生存マウスも、6か月後に腫瘍発生の兆しはみられなかった。以上のことから、CBLB502は、腫瘍に関連する共通の生存機構の活性化によって正常組織を放射線から効果的に保護している可能性があり、これが放射線治療の治療係数を高めると考えられる。

doi:10.1038/nrc2406

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