Research Highlights

荒れた背景

Nature Reviews Cancer

2007年8月1日

前に家を引き払ったときのことを覚えておいでだろうか。「ニッチ」が片付かないだけで確実に秩序が乱れる。近頃、Cell誌に発表された2編の論文には、これが造血にも当てはまる、つまり、骨髄微小環境で遺伝子が1つでも変化すれば、骨髄増殖様疾患が起こりうると書かれている。

造血は、造血幹細胞(HSC)が秩序正しく自己再生または分化することによるもので、内因性および外因性の合図が関与する。これに骨髄微小環境が重要であることはわかっているが、どう寄与するかについては厳密には解明されていない。S Orkinらは、細胞周期の調節が変化すれば幹細胞の運命が変わると仮定し、細胞周期の負の調節因子である網膜芽細胞腫タンパク質(RB)の造血における機能を検討した。成マウスにCre-Lox技術を用いてHSCをはじめとする造血細胞のRbを特異的に削除すると、その12週間後にはマウスに細胞密度の高い骨髄および骨髄増殖様疾患がみられ、脾臓および肝臓に明らかな髄外造血が認められた。さらに検討したところ、上記マウスのHSCは自己再生よりも分化の方が起こりやすく、髄外部位へ再分布するHSCが多いことがわかった。では、HSCに内因性欠損はあるのだろうか。一連のすぐれた移植実験により、HSCからRBが消失してもこの細胞の機能は変わらないが、骨髄ニッチからRBが消失するとHSCの滞留が妨げられ、その挙動に外因性の影響が出ることがわかった。また、分化度の高い骨髄系統の細胞からRBが内因的に消失し、同時に骨髄ニッチからRBが外因的に消失すると、細胞間相互作用が破綻し、骨髄増殖様疾患の発症が可能となった。

RB以外にも、核ホルモン受容体のレチノイン酸受容体(RAR)ファミリーなど、これまでに多くの遺伝子が造血疾患の発症にかかわってきた。Rargヌルマウスの骨髄はHSC数が少なく、未熟前駆細胞数が多い。L Purtonらは、上記マウスが成熟細胞の産生に影響を受けているかどうかを検討した。骨髄では、未熟顆粒球および成熟顆粒球の数が明らかに多かったが、Orkinらのマウスとは異なり、髄外部位のHSC数は多くなく、この細胞の骨髄での滞留が問題にならないことがわかった。Purtonらは、顆粒球-マクロファージ系前駆細胞の産生が増大した理由として機能的障害を除き、12カ月齢まで生き延びた少数のRargヌルマウスで上記細胞の運命を調べた。このマウスは骨髄増殖様疾患を来たしたが、白血病もリンパ腫も発症することはなかった。Rargヌルの造血細胞を野生型マウスに移植しても、疾患を来たすことはなかったが、野生型造血細胞をRargヌル骨髄のコンジェニック系マウスに移植したところ、顆粒球の数が増大した。では、RARγの消失は、どのような骨髄微小環境の変化を誘導するのだろうか。Rargヌルマウスは腫瘍壊死因子α(TNFα)のレベルが高く、このマウスにTnfαヌルの造血細胞を移植すると、骨髄増殖性疾患の重症度は低下したが、予防には至らなかった。Purtonらはさらに、骨髄増殖様疾患の表現型の維持にはRargヌル骨髄が必要であることも確認している。

以上の結果からは、骨髄増殖性疾患が単に細胞の内因性異常の結果ではなく、骨髄微小環境に寄与する細胞内の変異によって大きな影響を受け、引き起こされうることがわかる。

doi:10.1038/nrc2195

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