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低酸素:対立作用

Nature Reviews Cancer

2007年6月1日

低酸素誘導因子1α(HIF1α)は、低酸素細胞でのグルコース代謝調節にかかわっており、実際、通常の酸素条件下では細胞のHIF1α発現レベルが少ないことから、酸素濃度は間違いなくこの転写因子の調節因子である。しかし、C ThompsonとM C Simonらは現在、HIF1αの機能が何よりも増殖因子の有無によって決まることを明らかにしている。 HIF1αについては、酸素濃度の他、増殖因子シグナル伝達経路によっても安定化しうることを示す証拠がある。そこでThompsonらは、HIF1α機能に増殖因子のシグナル伝達が必要かどうかという問いを立てた。そして、まずはインターロイキン3(IL3)依存性マウス造血細胞系を用い、in vitroの低酸素条件下で解糖速度を上げるにはIL3が必要であることを明らかにした。さらに、IL3不在下では低酸素条件下にある細胞の糖代謝が変調を来し、Hif1α mRNAが発現しなくなった。短い二本鎖RNA(shRNA)によりHif1αをノックダウンしたところ、複雑な一連の作用が認められた。IL3が存在する低酸素条件下では、野生型細胞は生き延び、Hif1α shRNA発現細胞は死滅したが、IL3が存在しない低酸素条件下では両細胞とも生き延びたのである。このように、HIF1αは、増殖因子が存在する低酸素条件下で造血細胞が生き延びるのに必要である。しかし、IL3が存在する通常の酸素条件下では、Hif1α shRNA発現細胞の増殖速度が増した。 細胞増殖に及ぼすHIF1αの上記作用は、Hif1α欠損T細胞で確認された。しかも、構成的に活性なHIF1αが発現するNIH3T3細胞では、標準培養条件下の細胞増殖が対照と比べて抑制された。さらに分析を重ねたところ、増殖因子の存在下でHIF1αが発現すると嫌気的解糖が誘導されることが明らかになった。この嫌気的解糖にはATPの合成を促進する作用があるが、脂肪酸合成が制限されるために増殖が抑制される。逆に、HIF1α発現が抑えられると、細胞が解糖経路を経て代謝するグルコースは減少する(そのためにATP合成も減少)が、脂質合成に利用されるグルコースは増大する。 以上のデータからは、HIF1αは増殖因子依存性転写因子であって、細胞が生き延びるのに適した形でグルコース代謝に直接作用するという仮説が裏付けられる。では、なぜHIF1αは、特に造血細胞における発現が細胞の増殖を抑えているにもかかわらず、発癌因子となりうるのだろうか。著者らは、他の試験も勘案すれば、HIF1αはHIF2αも発現している細胞でのみ発癌因子となるのではないか、としている。これは造血細胞には当てはまらない。

doi:10.1038/fake895

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