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Nature Reviews Cancer

2007年5月1日

Expression profiling: Relative significance

乳癌幹細胞様細胞と推定されるものとその子孫細胞は、既に特異的な細胞表面マーカーの発現に基づいて単離されている。しかし、これらの細胞集団に分子的な関連性はあるのだろうか。K Polyakらは、遺伝子発現プロファイリングを用いてこのことを検討している。

Polyakらはまず、乳癌試料および正常乳房組織からCD44+、CD24-(幹細胞様細胞と考えられる)およびCD44-、CD24+(さらに分化した管腔上皮様細胞と考えられる)の細胞集団を単離した。また、細胞表面受容体PROCRを利用して、CD44+、PROCR+の細胞集団を精製した。PROCRは、乳腺上皮細胞表面には発現するが、CD44とは異なり、白血球表面にも筋線維芽細胞表面にも発現しない。逆転写PCRからは、CD44+細胞には幹細胞マーカーが発現し、CD24+細胞には管腔上皮マーカーが発現することが明らかになった。一塩基多型分析では、一部の乳癌試料について、CD44+細胞がCD24+細胞と遺伝的に同一であることが確認された。しかし、その他の試料では、蛍光in situハイブリダイゼーション分析により、CD24+細胞集団は付加的変異を獲得できるために進化が継続し、これが乳癌の不均一性に寄与することが判明している。

Polyakらはまた、各細胞集団について連続遺伝子発現解析(SAGE)ライブラリを作製し、MetaCoreデータマイニング技術を用いてシグナル伝達経路が破綻している証拠を探した。その結果、CD44+乳癌細胞では形質転換増殖因子β(TGFβ)経路が重要であることがわかった。この細胞はTGFβ受容体2(TGFBR2)を発現するが、CD24+細胞ではこの遺伝子がメチル化する(ことをPolyakらが確認している)ため、その発現レベルははるかに低い。さらに、TGFBR1およびTGFBR2の低分子阻害因子は、in vitroで間葉表現型から上皮様表現型へのCD44+細胞分化を促したが、CD24+細胞に対する作用は認められなかった。

では、CD44+、PROCR+、CD24+の各細胞について作製したSAGEライブラリに、臨床的意味はあるのだろうか。Polyakらは、このライブラリを用いて遺伝子発現サイン2個を特定している。発現サインA(CD44+細胞に特徴的)は無転移生存期間の短縮に、発現サインB(CD24+細胞に特徴的)は無転移生存期間の延長に関連していた。しかも、TGFβ経路にかかわる遺伝子の発現は、無転移生存期間の短縮に大きくかかわっていた。

全体的にみると、上記のデータは、CD44+の遺伝子発現サインが発現していれば、この細胞集団の幹細胞様の性質を反映して予後不良となることを示す。さらに、 TGFβ経路の関与は、CD44+発現サインを有する患者に対してはTGFβを狙った治療法が有効である可能性を示唆する。Polyakらはこの他に、逆説的ではあるが、転移癌にはCD44+細胞よりもCD24+細胞の方が多いことを明らかにしている。しかし、これについてはさらに検討を重ねる必要がある。

doi:10.1038/nrc2132

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