Research Highlights

遺伝子の精密な位置決め

Nature Reviews Cancer

2002年8月1日

散発性癌には遺伝的な要素がありそうだとされているが、関連する癌感受性遺伝子の 位置決めは難しい。ところが、この状況が変化しつつあるようだ。Peter Demantほか がNature Geneticsの7月号に報告したところによると、ヒトの癌で欠失している感受性遺 伝子の候補を同定するために遺伝学的な手法を使用し、マウスの大腸癌 (Scc1)遺伝子座にその候補を位置づけている。

emantらは、2系統のマウスを交配した。それぞれの系統はScc1座に関して異 なる対立遺伝子をもっており、一方は大腸癌への耐性を、他方は感受性をもたらす。 これら2系統の遺伝子座には異なる遺伝マーカーがあって、仔マウスでその領域に組 換えが起こったかどうかを同定できる。組換え地図と癌の感受性との相関を調べて、 Scc1を含む正確な領域が位置づけられた。Ptprjという単一遺伝子が この領域に含まれており、ヒトについてその相同領域を解析したところ、同じものが 見つかった。そこで、PtprjがScc1の唯一の候補遺伝子となる。

tprjにはタンパク質チロシンホスファターゼ受容体のJ型が書き込まれてお り、触媒ドメインがあってフィブロネクチン反復配列を8個含む。しかし、これが欠 失すると癌につながるという証拠はあるのだろうか。ヒトの相同領域中でヘテロ接合 性の消失を対象にして散発性直腸結腸腺癌のスクリーニングが行われ、連鎖してはい るものの独立に欠失している領域が同定された。どちらも症例の50%程度で欠失があ った。その一方はごく小さい共通の欠失領域にPTPRJが含まれ、癌の1つでは この遺伝子が欠失していた。興味深くも、ヘテロ接合性の消失は、ある種の肺癌や乳 癌でも観察されている。

emantらはPTPRJのエキソンについて配列決定も行い、多型を7つ発見した。 その1つA1176は、C1176に対して優先的に失われていた。この多型はフィブロネクチ ン反復の内部に生じており、タンパク質の立体構造を変化させてほかのタンパク質と の結合に影響する可能性があると考えられる。ミスセンス変異が2つだけ同定され、 このことから、KIP1やARFといった腫瘍抑制因子と同様、対立遺伝子の一方が失われ るだけで癌細胞の増殖や生存の条件が整うことが示唆される。

たがって、マウスでの精密な地図作成によって、ほかにも多くの癌感受性遺伝子の 位置決めが可能になるかもしれない。この研究は、癌研究の未知の分野に光を当てる に違いない。

doi:10.1038/nrc871

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