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腫瘍をねらい打ち

Nature Reviews Cancer

2002年8月1日

血管新生(新しい血管を形成する作用)は、癌の進行と転移に重要な役割をもつ。血 管内皮増殖因子(VEGF)はこの過程で鍵となる役割を果たし、その受容体の1つ、KDR が主に仲介するらしい。KDRは腫瘍の血管系で過剰に発現している。Proceedings of the National Academy of Sciencesの報告でVeenendaalらは、毒性をもつゲ ロニン(rGel)をVEGFに融合させ、生体内で選択的に腫瘍の血管系を破壊して治療に 活用できる可能性を述べている。

合タンパク質はVEGF121(ヒトのVEGFイソ型4種の1つ)を柔軟な鎖でrGelに つないであり、大腸菌で発現させて生成した。これは、VEGF121単独の場合と 同様にKDRを活性化することが示された。ゲロニンが毒素として選ばれたのは、ヒト で抗原性を示さないためであり、抗癌治療を前提に評価されたほかの毒素と違って、 正常な血管には障害を与えないと思われる。

体外の試験では、VEGF121/rGelは分裂中の血管内皮細胞に対し高い毒性 (IC50 ≦ 1 nm)を示すが、KDR発現量の少ない細胞はVEGF121/rGel に対し遊離のrGelの毒性(IC50 ≧ 300 nm)に比べ感受性がけっして高くはなかった。 KDR発現の閾値を上回るという要求は、正常臓器のKDR発現量が閾値以下と考えられる ので、VEGF121/rGelの安全性にとって重要かもしれない。さらに、 VEGF121/rGelは、KDR発現量が同等でも、分裂細胞に対し分裂していない細胞 に対するより60倍も毒性が高い。

て、生体外での結果は生体内での確証としていいのだろうか。ヒト黒色腫あるいは ヒト前立腺を移植したマウスでは、VEGF121/rGel処置により、腫瘍の容積が 未処置の対象に比べ17%未満になった。VEGF121/rGelは主として腫瘍の血管内 皮に集中しており、腫瘍の血管の損傷や血栓が観察された。一方正常組織では、血管 に影響は見られなかった。全般的に、マウスではVEGF121/rGelによる腫瘍血 管の破壊が達成されたと思われ、ヒトでの治験が来年にも始まると期待されている。

doi:10.1038/fake872

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