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腫瘍細胞が動くしくみ

Nature Reviews Cancer

2003年8月1日

腫瘍細胞転移にかかわる過程は複雑で未解明の部分が多いが、最も基本的な特徴は、細胞外基質(ECM)を通って原発性腫瘍から離れる細胞運動である。細胞が運動するには細胞骨格を構築しなおす必要がある。RHOファミリーのGTPアーゼ群は、RHOキナーゼ(ROCK)ファミリーを介してアクチンなどの細胞骨格タンパク質を調節することが知られ、腫瘍で過剰発現していることが多い。そこでSahaiとMarshallは、この情報伝達経路が腫瘍細胞系列の運動性に果たす役割を考察した。

CMに似た三次元基質内において、腫瘍細胞系列の運動をTAT-C3とY27632への応答で評価した。前者はRHOタンパク質を不活性化、後者は ROCKタンパク質を阻害する。ある細胞系列(A375m2転移性黒色腫など)の浸潤能はどちらの阻害剤でもほぼ完全に阻害された。その一方、まったく影響されない細胞系列(BE大腸癌など)もあった。これらの阻害剤の影響と浸潤細胞の形態にはある相関が認められた。RHOやROCKが阻害されやすい細胞系列では、膜に泡状突起ができ、細胞が丸くなっていた。対照的にBEのような細胞では、膜に糸状突起をもち伸展した細胞が見られた。ヌードマウスの皮下に緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現する腫瘍細胞を注入し、生じた腫瘍の生体組織検査を行って生体内でもこの形態が確認された。

の相関性との因果関係を明らかにするため、腫瘍細胞の形態に及ぼすRHO-ROCK情報伝達調節の影響が調べられた。TAT-C3かY27632で処理したA375m2細胞は膜の泡状突起がなくなり、糸状突起が発達した。親細胞の非転移性A375細胞は丸くないが、RHOあるいはROCKタンパク質の過剰発現や恒常的活性化により細胞の丸みが増した。恒常的に活性なRHOAあるいはROCK1を導入したBE細胞は、細長い形態でなくもっと丸みを帯びるようになった。したがって、RHO-ROCK情報伝達は丸い形態に必要十分である。最後に、SahaiとMarshallは細胞運動の機構について調べた。伸展しながら動く細胞とは対照的に、丸いA375m2細胞では先端縁へのホスファチジルイノシトール3,4,5‐トリスリン酸の局在化、あるいはゴルジ体の極性化を示さなかった。一方、丸い細胞では細胞の運動方向に沿ってエズリンの膜区画が局在していた。エズリンの機能を妨害すると、浸潤能が阻害された。エズリンは細胞骨格に細胞基質間結合を連結する。そのため細胞運動は極性をもった細胞接着に応じて起こり、細胞を一方向に「引きずっていく」ことになる。

味深いことに、丸いA375m2細胞の運動は基質のタンパク質分解に依存しないことが明らかになった。さらに、細胞外タンパク質分解を阻害すると、正常では伸長するように動き、RHO-ROCK情報伝達を必要としない細胞(BE細胞など)が、RHO-ROCK依存性に丸くなる様式で動き始める。つまり、ある腫瘍細胞では、タンパク質分解とROCK情報伝達の両方が阻害されたときのみ浸潤が阻止されることが示された。転移を阻止する将来的な治療戦略では、腫瘍の種類とその互換性によるこれら2つの運動様式の相 対的な役割を考慮する必要がある。これには腫瘍細胞の浸潤形態が丸いか細長いかを識別する組織学的標識を見つける必要があるだろう。

doi:10.1038/fake868

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