Research Highlights

生まれながらの抑制因子

Nature Reviews Cancer

2003年7月1日

腫瘍の血管新生を促進する因子に焦点を合わせた研究はかなり進展してきたが、自然につくられる血管新生抑制因子についてはほとんどわかっていない。Cancer Cell誌の6月号でRaghu Kalluriらが報告しているところによると、IV型コラーゲンの切断断片、タムスタチン(tumstatin)は、血管新生の内在性阻害因子としての 機能をもつだけでなく、癌抑制因子としての機能ももつ。

タムスタチンは、血管基底膜成分の1つであるIV型コラーゲンα3鎖(ColIVα3)のタンパク質分解産物である。この切断断片は血液循環中に検出され、血管新生を抑制する性質をもつことも明らかにされている。しかし、タムスタチンの生体内での機能についてはほとんどわかっていない。

そこでKalluriらは、ColIVα3欠損マウスの研究を行った。ColIVα3欠損マウスはタムスタチンをつくらないが、血管新生が関与するとされる胚発生や創傷治癒過程に欠陥は少しも検出されなかった。ところがColIVα3欠損マウスは、病的血管新生に欠陥があった。野生型マウスとColIVα3欠損マウスに3種類の腫瘍を移植したところ、腫瘍が500 mm3の大きさに達するまではどのマウスでも同じ速度で腫瘍が増殖することがわかった。腫瘍が500 mm3に達してからは、ColIVα3欠損マウスでの腫瘍増殖と腫瘍血管の形成が野生型マウスに比べて急速に加速されるようになった。この影響は可逆的で、ColIVα3欠損マウスに組換えタムスタチンを投与すると腫瘍の増殖速度が野生型マウスと同程度に減少した。

ではタムスタチンは、どのようにして腫瘍の血管新生を特異的に阻止するのだろうか。タムスタチンは、腫瘍関連血管で発現されるαvβ3インテグリンという受容体に特異的に結合するリガンドだとわかっていた。Kalluriらの観察によれば、タムスタチンはβ3インテグリン欠損マウスの腫瘍関連血管形成を阻害しなかったので、タムスタチンを介した情報伝達にはβ3インテグリン受容体が必要だと考えられた。治癒しつつある創傷に付随する血管はその代わりβ1インテグリンだけを発現していて、タムスタチンに応答しないことがこれで説明されるかもしれない。500mm3を超える大きな腫瘍に関係する血管も、おもにβ3インテグリンを発現していた。

基質メタロプロテイナーゼ‐9(MMP-9)が、ColIVα3からタムスタチンを切り離すとされている。Kalluriらの研究グループが明らかにしたところによれば、Mmp-9欠損マウスではタムスタチンの血液循環量が少ないので、大きな腫瘍の増殖が促進される。 しかしMMP-9は、血管新生への切換えと腫瘍増殖を促進する調節因子だとされてきたのに、なぜ血管新生抑制因子の産生にも関与するのだろう。

Kalluri らは、腫瘍の進行度の違いにより、MMP-9は腫瘍形成に対して逆の作用をするのではないかと述べている。すなわちMMP-9は、血管新生への切換えを促進して初期の爆発的な腫瘍増殖をもたらすことがある一方、タムスタチンなどの内在性血管新生阻害因子をつくりだして結局は腫瘍増殖を抑制する。このように考えると、タムスタチンは腫瘍増殖後期の特異的阻害因子として治療に使える可能性があるかもしれない。今後、癌患者ではタムスタチンの生成または機能が破壊されているかどうかを調べる実験が必要だ。

doi:10.1038/nrc1135

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