Research Highlights

新しい傾向の腫瘍治療

Nature Reviews Cancer

2003年7月1日

樹状細胞(DCと略す)はT細胞に腫瘍抗原を提示してT細胞を介した抗腫瘍応答を増強する。この能力を利用する「DCを使った抗腫瘍ワクチン」が開発されてきた。現在臨床試験で調べられているワクチンは、患者に再注入する前に生体外で腫瘍抗原を取り込んだDCを使っている。この方法で抗腫瘍免疫応答をつくり出すことには成功したが、長期的に見ると結果はあまり期待できない。 Whartenbyらが今回、骨髄移植(BMT)に基づいて定着性腫瘍を治療する新戦略について報告している。この戦略では、造血幹細胞(HSC)に腫瘍抗原の遺伝子を導入した後、このHSCを生体内で分化させる。

hartenbyらは最初に、緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現するレンチウイルスベクターをHSCに導入し、致死量の放射線を照射したマウスにそれを移植した。移植したマウスのリンパ系器官に生じたDCの大部分はGFPを発現していたので、遺伝子導入されたHSCが分化してGFP導入遺伝子を発現するDCになり、末梢リンパ系器官にうまく輸送されたと考えられた。

伝子を導入されたDCが抗原特異的応答を活性化するかどうかを調べるため、対照のレンチウイルスまたは腫瘍抗原(赤血球凝集素;HA)の遺伝子をもつレンチウイルスを導入したHSCによるBMTを放射線照射マウスに行った。このマウスには、HA特異的T細胞受容体をもつ遺伝子導入T細胞も移植しておいた。BMTの10日前に、HAを発現するA20-HAリンパ腫細胞をマウスに注入した。また、BMTの3週間後には、DCを活性化するためにFlt3リガンドおよびCD40に特異的な抗体をマウスに投与し、HA遺伝子導入マウス由来の成熟T細胞も投与して中枢性免疫寛容の誘導の克服を促した。中枢性免疫寛容は、抗原を発現するDCの胸腺内での再増殖に引き続いて起こることがある。

hartenbyらが行った方法の最終結果はどうなったのか。また、この方法によって定着性腫瘍の治療上の利益を生じたのだろうか。HA特異的T細胞は、Flt3リガンド、 CD40特異的抗体および成熟T細胞と組み合わせて投与した場合、HA遺伝子導入HSCを移植したマウスの体内で活性化され、増殖した。増殖したT細胞集団はエフェクター機能をもち、移植から1年後になってもマウス体内で増殖可能だった。この戦略は、定着性腫瘍をもつマウスに生体外処理で作製した遺伝子導入DCを投与する方法よりも好結果をもたらし、投与したT細胞が遺伝子導入していない担癌マウス由来であっても処理マウスの約50%が長期間生存した。

hartenbyらが結論で述べているように、この方法を医療現場で利用するには改変する必要があり、その場合も既知の抗原をもつ腫瘍にしか適用できない。それでも、Whartenbyらの研究から、抗原遺伝子を導入したHSCを用いて抗原特異的腫瘍免疫を誘導する可能性のある新手法が脚光を浴びることになった。

doi:10.1038/nrc1134

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