Research Highlights

ここは息が詰まりそうだ!

Nature Reviews Cancer

2003年6月1日

新しい抗癌剤の生体内試験の有望な結果が医療現場でも得られれば、近いうちに腫瘍細胞を窒息させることができるかもしれない。Parkらが報告したところによると、当初は循環器系疾患の治療用に開発されたYC-1という薬は、低酸素症誘導性因子‐1α(HIF-1α)の活性を阻害することにより、細胞増殖と転移に必要な酸素を欠乏させて腫瘍細胞を苦しめることができる。

酸素症は、急速に増殖している固形腫瘍にしばしば見られる。これは、新しい血管の増殖が腫瘍の増大に追いつかないために起こる。これを切り抜けて生き残るため、腫瘍は血管内皮細胞増殖因子(VEGF)などの血管新生促進因子を誘導しなければならない。Parkらの報告は、血管新生経路の上流に位置するHIF- 1αという重要な転写因子を標的とした攻撃が生体内で有効性を示したとする最初の研究である。

常な酸素条件下では、HIF-1αは水酸化され、それを介してフォンヒッペル・リンドウタンパク質に結合している。フォンヒッペル・リンドウタンパク質はユビキチン ‐リガーゼ複合体の一部である。その後ユビキチン化されたHIF-1αは、プロテアソームによって分解される。ところが低酸素条件下ではHIF-1αの水酸化が阻害され、フォンヒッペル・リンドウタンパク質に結合しないので、最終的な結果としてHIF-1αは分解されない。生物学的活性をもつHIF-1α は、VEGFの発現量を増加させる。

験管内での実験の結果から、YC-1は低酸素条件下では腫瘍細胞系によるHIF-1αの発現を阻害することがわかっていた。そこでParkらは、マウスの異種移植モデルを用いてYC-1の生体内での効果を調べた。免疫系に欠損があるヌードマウスに種々の種類の腫瘍細胞系を移植した後、腫瘍が定着したマウスにYC-1または偽薬を毎日投与した。 2週間後に観察したところ、移植した腫瘍の種類にかかわりなく、YC-1処理マウスの腫瘍の大きさは対照マウスに比較してかなり小さかった。YC-1処理マウスの腫瘍のHIF-1αタンパク質の発現量は対照マウスよりもかなり低く、 VEGFタンパク質の発現量とmRNA量も低かった。腫瘍組織片を解析すると、YC-1処理マウスの腫瘍にはよく発達した血管系が少なく、内皮細胞標識の CD31陽性の血管はわずかだった。

たがって、Parkらによるこの最初の研究の結果から見ると、YC-1は、さまざまな種 類の腫瘍が低酸素症に対処する能力を妨害して腫瘍を「窒息させる」のに使えそうだ。 マウスモデルの研究では、YC-1の毒性が低いことが重要な利点である。とはいえ、 YC-1は循環器系に別の作用を及ぼすことが知られており、ヒトの場合には出血持続時 間の増加や低血圧などの副作用があるかもしれない。

doi:10.1038/nrc1087

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