Research Highlights

スーパーマウスその2

Nature Reviews Cancer

2003年6月1日

最近、ゲノムに複数のTrp53遺伝子をもつマウスは癌形成に抵抗性を示すことが報告された。これに続いて、マウスでは遺伝形質が免疫応答を誘発し、癌形成抵抗性や癌の退縮を引き起こす場合があることが発見された。この驚くべき遺伝形質は、Zheng Cuiらによって偶然発見され、さらに詳細に解析された。

180細胞をマウスの腹腔内に注入すると、3〜4週間以内に腹水の貯留と転移が生じて 死亡する。Cuiらは、S180細胞を腹腔内注入したマウスの応答検査の過程で、腹水形 成に抵抗性を示す雄マウスを発見した。このマウスをS180細胞感受性のマウスと交配 すると、F1とそれ以後の世代の子孫の約40%がやはり腹水形成に抵抗性を示した。したがって、この形質は野生型に対して優性で、この形質の原因になる遺伝子座は1個だけと考えられた。この形質は、性とは無関係だったので、おそらく常染色体上にあるのだろう。

もしろいことに、この腹水形成抵抗性応答はマウスの加齢に伴って変化する。マウスが6週齢のときに初めてS180細胞を注入すると、完全に腹水形成に抵抗性になる。ところが、6週齢以後に細胞を注入すると、応答は抵抗性から退縮へと変化する。22週齢のときに初めて細胞を注入したマウスでは、ほぼ全個体が退縮応答に切り替わっていた。この場合、最初の2週間は腹水の貯留が起こるが、その後24時間以内に腹水が消失する。このことから、22週齢のマウスでは若いマウスよりも癌抑制機構が働くまでに時間がかかるが、いったんこの機構が働くようになればマウスは腫瘍形成に完全に抵抗性になると考えられる。

は、この抵抗性応答はどのようにして発現されるのだろうか。Cuiらは、マウスにS180細胞を注入したのち、腹膜腔洗浄液を調べた。そして、抵抗性のマウスの腹膜腔洗浄液には、細胞注入後12時間以内に2000万個の癌細胞を破壊する能力があることを発見した。6〜12時間までは多数の白血球が腹膜腔内に移動するが、癌細胞が破壊されたのちは白血球は消失する。これらの免疫細胞は、癌細胞を囲んでロゼット(rosette、バラの花模様の構造)を形成するようだ。癌細胞の大部分は膜が破裂し、 細胞傷害作用が起こったことを示している。

抑制免疫応答を媒介するのはT細胞だと長い間考えられてきた。ところが、成熟T細胞をもたない無胸腺ヌードマウスにこの腹水形成抵抗性を交配によって導入することができ、そのマウスはS180細胞を注入しても腹水が貯留しない。このことから、T細胞以外の免疫細胞が腹水形成抵抗性に必要なのかもしれないと考えられる。予備的解析の結果、その免疫細胞はたぶん自然免疫応答にかかわる好中球、マクロファージ、ナチュラルキラー細胞などらしいとわかった。

ウスに養子移入された白血球はそのマウスの体内で腫瘍形成抵抗性応答を媒介する能力をもつ見込みがあり、患者への適用が可能な戦略が示唆される。

doi:10.1038/nrc1111

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