Research Highlights

大腸癌の簡易検出法

Nature Reviews Cancer

2003年5月1日

癌の有無の目印になる癌マーカーの探索が続いているが、体にメスを入れずに癌を予測する検査法を見つけるのは容易でない。今回Andrew Feinbergらが、この難問の解 決に向けて一歩踏み出したことをScience誌の3月14日号で報告した。 Feinbergらは、簡単な血液検査で大腸癌にかかる危険性を予測できることを示している。 腫瘍形成は遺伝的変化と後成的変化のどちらからも開始しうるので、これらの変化を 検出すれば癌の危険性または存在を予測することができる。遺伝的刷込み(imprinting)は後成的変化によって生じ、遺伝子転写の抑制を引き起こす。したがって、遺伝的刷込みの消失(loss of imprinting, LOIと略す)が起こると、転写が抑制されていた対立遺伝子が発現されるようになるので腫瘍形成の一因となりうる遺伝子が発現することがある。インスリン様増殖因子‐2遺伝子(IGF2)のLOIは 数種類の腫瘍で見いだされているが、癌を予測する指標になるだろうか。 大腸癌患者の結腸粘膜には、大腸癌でない患者よりもIGF2遺伝子のLOIが多く見られる。Feinbergらは、大腸癌の家族歴または個人歴がある患者の末梢血リンパ球(PBL)にもIGF2遺伝子のLOIが多いかどうかを調べた。大腸癌の家族歴がある患者は、家族歴がない患者よりLOIが5.15倍高くなる可能性があった。また、その患者が以前に腺腫様ポリープまたは大腸癌と診断されていた場合は、LOIが4.72倍高くなる可能性があった。この結果から、IGF2遺伝子のLOIは大腸癌と強い関連があり、しかもそれを血液検査で検出できることがわかる。 Feinbergらがさらに解析したところ、大腸癌の病歴がある患者は腺腫の病歴がある患者よりもIGF2遺伝子のLOIをもつ可能性が高かった。すなわち、大腸癌患者のLOIは、家族歴がない患者の21.7倍、腺腫患者のLOIは3.46倍になった。この結果は、大腸癌が腺腫から癌腫に進行するとする仮説と矛盾がなく、IGF2遺伝子のLOI は腫瘍の開始または進行段階に関与すると考えられる。では、結腸とPBLのLOIにはどんな関係があるのだろうか。IGF2遺伝子のLOIがPBLに存在する場合は、LOIは結腸にも存在していた。ところが、IGF2遺伝子のLOIが結腸だけに存在する場合があった。しかし、このような場合には癌との統 計的に有意な関連はまったくなかったので、LOIを血液検査で検出することの有用性が損なわれるわけではない。 血液検査でRNAではなくDNAを調べれば、この検査による危険性評価が行いやすくなる。 幸運にも、IGF2遺伝子の内部領域のメチル化の程度の差異からLOIが予測される。IGF2遺伝子内部領域のメチル化の減少は、大腸癌患者だけでなく、正常なヒトの組織や血液においてもLOIと関連がある。 IGF2遺伝子のLOIの血液検査は、大腸癌を予測する判断材料になり、このLOI は大腸癌の素因になる他の変異よりも高頻度で見いだされるので、一般的な集団検診に役立つかもしれない。しかし、この検査法を導入する前に、大規模な予測臨床研究を行わなければならない。

doi:10.1038/nrc1060

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