Research Highlights

危険な細胞分裂

Nature Reviews Cancer

2003年3月1日

細胞分裂は危険な仕事だ。どの染色体の動原体も有糸分裂紡錘体に付着させて、2本の染色分体が細胞の両極に正確に分離するようにしなければならないのだから。この過程を完全に行うよう、紡錘体の集合を点検するチェックポイント機構が注意深く監視している。このチェックポイントに欠損があると、ヒトの癌にしばしば見られる異数性が引き起こされることがあるとされている。しかし、チェックポイント遺伝子BUB1、BUBR1

よびMAD2の変異が見いだされることはめったにない。Ashok Venkitaramanらの研究から今回示唆されるところによれば、癌細胞はチェックポイント遺伝子の変異に代わる別の調節解除機構、すなわち、 AURORA-A遺伝子の増幅を利用している可能性がある。

URORA-A遺伝子産物のオーロラ‐Aというセリン‐トレオニンキナーゼは、かなりの数の上皮癌で過剰に発現され、過剰発現が遺伝子増幅の結果として起こることも多い。出芽酵母に見いだされるIpl1という類似のタンパク質は、染色体の有糸分裂紡錘体への結合を調節している。オーロラ ‐Aタンパク質の過剰発現はこの過程の調節異常をもたらす可能性があると推論し、Venkitaramanらはオーロラ‐Aをヒトの癌に見いだされるのと同程度に過剰に発現するマウス胚繊維芽細胞とヒトHeLa細胞を作出した。Venkitaramanらは、オーロラ‐Aタンパク質の過剰発現によって有糸分裂程にいくつかの異常が生じ、これらの異常は染色体と紡錘体の結合上の欠陥から生じることを見いだした。観察した有糸分裂のうち59%では、染色体は中期に赤道面上に整列しなかった。また、11%の細胞は紡錘体に異常があり、多くは多極性で、染色体は紡錘体に適切に結合していなかった(図参照)。

常、紡錘体への結合に問題があると、紡錘体のチェックポイント機構が活性化され、中期から後期への移行時の分裂停止が引き起こされると予想される。 Venkitaramanらは、MAD2タンパク質の局在部位を特定し、チェックポイントの活性化を調べた。ふつうは、中期にチェックポイント機構が働いている間は、MAD2タンパク質は動原体にとどまっている。しかし、チェックポイント機構のスイッチが切れて細胞が後期に入ると、MAD2タンパク質の再分散が起こる。ところが、HeLa細胞でオーロラ‐Aタンパク質が過剰に発現すると、MAD2タンパク質の挙動が異常になることがわかった。MAD2タンパク質が消失しているはずの後期の細胞の80%において、このタンパク質が動原体にとどまっていたのである。この場合、紡錘体のチェックポイント機構の活性化が続いているのに、後期が始まると考えられる。

前にいくつかの研究室が注目しているように、オーロラ‐Aタンパク質の過剰発現の結果のひとつとして倍数細胞が蓄積する。オーロラ‐A発現の増加が引き起こす紡錘体チェックポイントの問題に、この倍数細胞の蓄積を関連づけられるだろうか。細胞分裂の後期を通過後、オーロラ‐Aを過剰に発現する細胞は核分裂を完了させるが、細胞質分裂には至らずに多核形成や倍数性が引き起こされることをVenkitaramanらは示している。ところが、紡錘体チェックポイントを不活性化する変異BUB1タンパク質を共存発現させると、オーロラ‐Aの過剰発現による欠損が軽減されたので、これらの欠損は確かに、オーロラ ‐Aが中期から後期への移行時のチェックポイントを「無効にする」能力に関連があると考えられた。

クリタキセル(タキソール)などの癌化学療法剤は、細胞分裂の中期での停止とアポトーシスを誘導する。これらの薬剤は、微小管の動的性質を妨げて有糸分裂紡錘体を阻害するためである。では、AURORA-A遺伝子の増幅はパクリタキセルに対する応答に影響を及ぼすだろうか。おもしろいことに、オーロラ‐Aの過剰発現はパクリタキセル誘導性アポトーシスに対する抵抗性の増大を引き起こすので、この遺伝子増幅をもつ癌患者に薬が効かないことの一因になっているかもしれない。

のように、ヒトの腫瘍でよく見られるAURORA-A遺伝子の増幅は、動原体の紡錘体への正確な付着と紡錘体チェックポイントの活性化を妨げてゲノムの不安定性を増す一因になることがある。このような現象が起こる機構は今のところはっきりしないが、この結果がパクリタキセルによる癌治療に及ぼす影響を考えると、さらに研究を進めるに値するのは確かだ。

doi:10.1038/nrc1031

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