Research Highlights

細胞死誘導スイッチを切る

Nature Reviews Cancer

2003年3月1日

JUNタンパク質は20年近く前に発見されて以来、正常組織と腫瘍の両方において細胞 の増殖と存続を調節していることが示されてきた。JUNは特に肝細胞に重要だとされ、 肝癌の発生にもJUNが関与しているという仮説も生じた。Erwin Wagnerらはこれにつ いてマウスを使って研究し、Junタンパク質がp53発現のスイッチを切って腫瘍形成を 促進し、続いて細胞死誘導スイッチを切ることを示している。

agnerらは条件対立遺伝子系を利用し、まずマウスが生まれるころに肝細胞 のJun遺伝子を特異的に欠失させた。次にマウスに化学的発癌処置を施し、肝 腫瘍を誘導した。対照マウスでは6か月齢までに大きな腫瘍が発生し、60%のマウスは 肝不全のために18か月齢までに死亡した。他方、肝特異的JunΔマウスでは腫 瘍の数は少なくて小さく、18か月齢までに死亡したのは10%だけだった。このことか ら、Junの欠失が肝腫瘍の形成を抑制する可能性があると考えられた。ところ で、この抑制が起こる原因は増殖の低下だろうか、それともアポトーシスの増加だろ うか。

agnerらはこのことを調べるため、対照マウスとJunΔマウスの腫瘍の増殖と アポトーシスの比率を測定した。細胞の増殖率はKi67標識を用いて測定し、アポトー シスを起こした細胞の比率はTUNEL法で調べた。増殖性細胞の数は両者の腫瘍で類似 していたが、JunΔ腫瘍ではアポトーシスを起こした細胞の数が非常に増加し ていた。このことから、Junタンパク質は肝腫瘍細胞の生存因子として作用すると考 えられる。

unのこの生存因子としての機能に必要なものをさらに検討するため、Wagnerらは肝 腫瘍発生の種々の段階でJunを欠損させた。Jun遺伝子を腫瘍形成開始前と開 始直後のどちらで欠失させたかに関係なく、腫瘍形成は同程度に抑制された。また、 生存因子機能も腫瘍形成の進行に無関係だと思われた。Junタンパク質のアミノ末端 側部位のリン酸化による活性化もこの活性には必要でなかった。これらの部位をアラ ニンに変異させても腫瘍形成は減少しないからである。おもしろいことに、腫瘍形成 開始の6か月後にJun遺伝子を欠失させると、その後は腫瘍の退縮は見られな かった。腫瘍はJunとは無関係になっていたのである。したがってJunは、腫瘍形成の 開始と進行の間の初期にアポトーシスを阻害して腫瘍の発生を促進する。

はJunの活性はどのようにしてアポトーシスを抑制するのか。JunΔ肝細胞 におけるBcl2ファミリーの数種のタンパク質と細胞死受容体の発現量は、対照とした 肝細胞に比較して変化していなかったが、腫瘍壊死因子(TNF)-αという細胞死誘導 リガンドに対する応答が変化していた。Jun遺伝子を欠失させると、JNKおよ びp38ストレスキナーゼ群の活性が上昇し、肝細胞がTNF-α誘導性アポトーシスに感 受性になるようだ。これらのキナーゼはp53を活性化することが明らかにされており、 JunΔ腫瘍でアポトーシスが増加する機構にはp53が関与すると考えられる。 そして実際、JunとTrp53の両遺伝子が欠損した肝細胞は、TNF-α誘導 性アポトーシスに対する抵抗性を回復していた。

ころで、同じことが腫瘍にもあてはまるのだろうか。対照とJunΔの両方の 肝腫瘍の生体組織検査を行ったところ、Junがないとp53の発現量が増加し、このp53 発現の増加はアポトーシスの前段階に作用するNoxaというp53の標的タンパク質の発 現の増加と一致することが確認された。

上の結果から、肝腫瘍の発生の過程に、Junはアポトーシスの前段階のp53の機能に 拮抗して腫瘍形成を促進すると考えられる。したがって、Jun阻害剤を設計すれば、 この種類の癌に有効な治療戦略になるかもしれない。

doi:10.1038/nrc1030

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