Research Highlights

沈黙を破った癌抑制遺伝子

Nature Reviews Cancer

2003年2月1日

DNAの過剰メチル化、ヒストンの脱アセチル化などの後成的修飾は、ヒトの癌細胞ではふつうに検出され、癌抑制遺伝子の発現を抑制することが明らかにされている。 Sidranskyらは各種技術を組み合わせて利用し、この後成的機構によって転写が抑制されている沈黙遺伝子を追加同定した。さらに、3個の新しい癌抑制遺伝子を発見した。

idranskyらの研究グループは、食道の扁平上皮癌(ESCC)細胞を複数の薬剤で処理して遺伝子の後成的転写抑制を阻止した。すなわち、細胞を5‐アザ‐2′‐デオキシ シチジンで処理してDNAのメチル化を阻止し、次にトリコスタチンAで処理してヒストンデアセチラーゼ活性を阻害した。この処理により、メチル化されたプロモーターで 転写を抑制されていたクロマチン構造の形成が回復する。次にマイクロアレイ解析法を利用し、転写を抑制された癌細胞と抑制されていない癌細胞の遺伝子発現様式を比 較した。全部で58個の転写抑制遺伝子をこの方法で同定し、そのうち44個(76%)の遺伝子のプロモーター領域にはメチル化部位としてよく知られたCpG島が高密度で含 まれることを見いだした。調べた22個の遺伝子のプロモーターのうち13個がESCC細胞系ではメチル化され、そのうちの10個の遺伝子はmRNAの段階で発現が抑制されていることがわかった。

れらの遺伝子のうちの3個、すなわち、CRIP1、APODおよびNMU遺伝子は、ESCC細胞に導入すると増殖抑制活性を示すことがコロニー形成検定法を用いて判定された。NMU(neuromedin U、ニューロメジンU)タンパク質は、正常な食道粘膜の保全に関係しているとされている。NMUの受容体であるFM3は、PI3 (ホスファチジルイノシトール3)キナーゼ‐γを介して情報を伝達するGタンパク質 共役型受容体である。PI3キナーゼ‐γは最近、ヒトの大腸癌細胞の増殖を阻止することが示されている。CRIP1(cystein‐rich intestinal protein 1、システインを豊富に含む腸管タンパク質1)は、癌細胞系でアポトーシスを誘導することが明らかになった転写因子だと考えられる。また、APOD(apolipoprotein D、アポリポタンパク質D)は細胞増殖の停止に関係している。

idranskyらは、これらの後成的に転写抑制された遺伝子が染色体上の特定領域に集まっていることを見いだした。これらの遺伝子座(3q26、4q12、14q24など)の多く は、癌細胞でヘテロ接合性の消失による染色体の欠失が存在するとされていた部位でもある。したがって、ほかの種類の癌細胞でこの研究方法を利用すれば、新種の癌抑制遺伝子や遺伝子座の同定が可能になるだろう。

doi:10.1038/nrc1001

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