Research Highlights

T細胞クローンの攻撃

Nature Reviews Cancer

2002年12月1日

マウスでは腫瘍特異的T細胞が腫瘍増殖を遅らせることを示す研究報告がたくさんあるが、ヒトの癌患者でT細胞を基盤とした免疫療法が有効だという証拠はほとんどなかった。治療の困難な転移性黒色腫患者に黒色腫特異的T細胞クローンを養子移入する第I相臨床試験が行われ、腫瘍を標的にするT細胞の誘導が可能だとする新たな証拠が得られた。

eeらは、性質のよくわかっているMART1およびgp100という2つの黒色腫/メラニン細 胞抗原に特異的な細胞傷害性T細胞(CTL)を、10人の第IV期黒色腫患者から単離した。 Yeeらは、ペプチドを取り込ませた樹状細胞を利用し、試験管内でこれらのT細胞に初 回免疫刺激を与えた。そして、MART1またはgp100を発現する細胞を特異的に溶解す るT細胞を選び出した。次にこれらのCTLクローンを培養して拡張し、4回分の注入液 に分けて患者の体内に戻した。1回目の注入後にT細胞を観察してみると、最初は生存 期間が6.7日で短かった。そこで、その後の注入ではインターロイキン(IL)‐2を同 時に投与したところ、CTLの平均生存期間がほぼ17日まで増加した。

TLの注入が終わってから3日後に採取した生体組織検査で、腫瘍特異的CTLは腫瘍部位に優先的に集積していることが明らかになった。患者の1人を調べたところ、腫瘍抗原特異的CTLは腫瘍に浸潤しているCTL集団全体の37%を構成していた。これに対して、末梢血では腫瘍抗原特異的CTLはCTL全体の1%にも満たなかった。黒色腫抗原特異的T細胞は、全CTLの0.5〜2.2%を構成することがわかった。これに比較して、以前のワクチンを基盤とした治療を受けた患者の研究では、腫瘍特異的 CTLの検出率は0.0 〜0.3%だった。

細胞の養子免疫療法の結果、10人の患者のうち5人の病気が安定化し、別の3人の患者では21か月後までかすかな応答あるいは混合型応答が見られた。患者の平均生存期間は11か月で、最長21か月間生き延びた患者もいた。この研究で対象にした患者数は少ないが、難治性の転移腫瘍患者の生存期間の中央値の4か月と比べると大きな進歩だ。養子免疫療法を受けたあとに重い毒性が観察された患者は1人もいなかった。 同時掲載されている論説で、Drew Pardollが、養子免疫療法を受けた患者はその治療に対して部分的にも完全にも応答しなかった、と指摘している。しかしこれは、移入されたCTLに抗腫瘍活性能力がなかったことを意味するのではない。腫瘍の生体組織検査の結果に基づくと、標的にした抗原の腫瘍細胞での発現は、検査した5人の患者のうち3人では消失していた。このことから、抗原を発現する腫瘍細胞は腫瘍特異 的CTLによって除去されたといえる。

れらの知見は、最近出てきた次のような考えを支持する。この考えによれば、癌患 者の個体の末梢血細胞には腫瘍反応性のT細胞が存在し、これらのT細胞は活性化され て転移腫瘍部位まで転送され、その部位で標的抗原を発現する腫瘍細胞を除去する。 この免疫療法による治療効果を改善するためには、T細胞の増殖を調節する特異的な 各種信号物質を特定するとともに、T細胞の活性化、腫瘍部位への局在化およびT細胞 の抗原標的に対する親和性を増強する方法を決定する研究がさらに必要である。

doi:10.1038/nrc963

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